17 守りたい①

「私から申し出たんだ。ラッセンさんが屋根に魔銃部隊を配備しているのを見て、たまたま戦術がわかったから。それに私だって戦えるよ!」

「ミグはいいの。兵士じゃないし、足だって長く立っていられないでしょ」

「でもテッサは戦うんでしょ!」


 ミグの口から思いがけず大きな声が出て、テッサは目をまるめて唇を結んだ。ミグ自身も驚いたが、自分を戦場へ駆り立てるものの正体はテッサを見て気づいた。

 幼なじみの腰には身を守るための防具だけでなく、細身の剣がぶら下がっている。いざとなれば王女自ら戦場に出る覚悟だ。自分だけ地下に隠れていることなどできない。

 その時、ミグは誰かに肩をトントンッと叩かれた気がして振り返った。不思議な感覚だった。まるで見えない手に導かれるように、ミグの目は兵士の集団から低く構えて走り出す男に吸い寄せられたのだ。

 男は短剣を握り締めていた。


「ラッセンさん後ろ!」


 叫びながらミグはテッサに抱きついた。しかし目は男から離さない。

 ラッセンはミグの声を聞くや否や男に背を向けたまま瞬時にしゃがみ込んだ。あまりのすばやさに相手からは消えたと見えたに違いない。まっすぐテッサに向かってきた男は近衛兵長の足払いに引っかかり、倒れたところをラッセンの剣に貫かれた。

 あたりに散らばった装備品のかしましい音が、せつな、止まったかのような時間を再び動かした。


「砲撃の騒動に紛れて侵入したのか……」


 絶命した男の前にひざをつきラッセンはつぶやく。身につけた装備はベガ国兵士のもので、ミグは一瞬自分の早とちりかと肝を冷やした。だが髪を掴んで男の顔を確認したラッセンは首を横に振る。王の親衛隊長としてすべての部隊を把握するラッセンが知らないとなれば、男の正体はプロキオン帝国が放った暗殺者で間違いない。


「くそっ! どこまで腐ってやがる」


 悪態をつくラッセンの苛立ちはミグにもよくわかった。暗殺者が身にまとっているものは、農産地区で戦死したベガ国兵士のものだろう。死んでなお、その亡骸や遺品を利用されるなど祖国のため勇敢に戦った戦士の魂を冒涜する行為だ。

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