18 守りたい②

 周りの兵士たちも帝国の残虐性に、あるいは仲間の無念を思って沈黙する中、ミグは暗殺者が手に白い紙を握り締めていることに気づいた。


「ラッセンさん。その人、なにか持ってますよ。あっ」


 だが言い終わった直後、腕の中の体が急に重くなってよろめく。なんとか踏み留まって覗き込んだテッサの顔色は青白く、目を覆う手はかすかに震えていた。


「テッサ!?」

「お部屋で休まれたほうがいい。ミグ、テッサ様についてあげてくれ。おい、案内しろ」


 ラッセンの指示はミグの願うところでもあった。暗殺者に狙われ、兵士の凄惨せいさんな最後を垣間見てテッサが感じた恐怖はミグの比ではないだろう。

 ラッセンの命を受けて進み出てきた兵士にうながされ、ミグは親友を「歩ける?」と気遣う。テッサは無言でうなずいた。まだ震えが止まらない白い手を取ってぎゅっと握り締める。ゆるく握り返してくれた温もりにミグは身を引き締め、兵士のあとにつづいた。

 門の前では薄朱うすあけ色の盾を持った門番がいて、〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉の白壁をまるでのれんを潜るようにして開けてくれる。薄朱色は魔力を無力化させる断魔だんま鉱の色だった。

 〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉の結界内は砲撃音も少し遠くに聞こえた。王立病院と兵舎が対面する広場にはまだ、地下防空壕に入れていない避難民であふれ返り、白いテントの下では治療を受ける者もいる。

 負傷兵が戻ってきている兵舎のほうからは時折、苦悶の声が上がった。

 ミグは兵士の背を追って、テッサと手を繋いだまま広場を突っきった。城門を潜り、大臣と将たちの会議もおこなわれる謁見の間を見つつ階段を上がる。二階は王族の私室が並ぶ。ミグも何度か来たことがある。そのどれもが地下の裏口を使った非公式の訪問だったが。

 テッサの私室前で一礼した兵士と別れて扉を潜ったとたん、ミグはテッサに肩をぽかりとやられた。


「二度とあんなことしないで。もう心臓止まるかと思ったんだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る