16 市街地戦④

「まったくごもっともで、げふんげふん!」


 うなずいたかと思えばラッセンは激しく首を横に振り、わざとらしい咳で誤魔化した。


「気持ちはうれしいが、ミグを兵士にしたら俺が怒られるから」

「誰にです?」

「いや、ほら……」

「ミグーッ!」


 ラッセンがミグの背後を見て苦い顔をしたのと、ミグが大きな声に名前を呼ばれたのはほぼ同時だった。振り返るよりも早く勢いのいい衝撃が背中にぶつかってくる。ミグを包む桃色の艶髪あでがみが舞い、花のように甘い香りがふわりと鼻先をかすめていく。


「城からミグの〈防護壁シールド〉が見えたわ。戦闘に参加したの!? ダメじゃない、すぐ病院の地下防空壕に逃げてこなくちゃ!」


 責めるように額をぐりぐりと押しつけてくる親友テッサをなだめて顔を上げさせる。そう言う幼なじみとてチュニックの上から胸当てや籠手など、ミグが見たこともない戦支度をしていた。


「よく私の魔法だってわかったね」

「あれほど鮮やかな〈展開エボリューション〉ができる魔導師を私はひとりしか知らないわ。そんなことより誤魔化さないで。なぜミグが戦場に出てるの。ラッセン、あなたの指示ですか」


 細めた緑の目に冷気を従えてテッサはラッセンを映す。毅然と紡がれる声はラッセンと周りの兵士だけでなく、ミグまで姿勢を正させるヴァイスハルツ王家の風格を帯びていた。

 ラッセンは「あの……」となにか言いかけたが、あごをグッと上げてきっぱりとした口調に変えた。


「はい。私の指示です。お咎めは甘んじて受け入れますので、まずテッサ様にはすみやかに王城地区へお戻り頂きたく願います」


 するとテッサは明らかにうんざりした表情を作った。この姫君は可憐な見た目に反して血気盛んであり、なによりも大人しくしていることが苦手だ。まったくどこの父王に似たのだろう。

 薄桃色の紅を差した美しい唇から長い不満が飛び出してくる予感がして、ミグはテッサとラッセンの間に割り込んだ。

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