10 やりやがった①
大粒の涙を指先で拭ってやりながら、一字一句言い聞かせる。涙の幕の向こうから不思議そうな目がゼクストを見つめていた。しかし「いいな?」と念を押すと、ミグはなにも言わずにうなずいた。
「いい子だ」
頬をほころばせ、小さな頭をぽんぽんとなでる。ミグは本当にいい子だ。ゼクストにこうして褒められるとはにかんで首に抱きついてくる。また頭をなでて欲しいから言いつけはけして破らない。
何度だって褒めてやりたいと思う。ミグからミグを奪わんとするものからこの子を守ってやれるのなら惜しみはしない。たとえ地下暮らしから抜け出せなくとも、大空を飛ぶ渡り鳥の心を持てるようにささやかな光で毎日を満たそう。
その光は、この目が闇に閉ざされたあともミグを照らしつづけてくれる。きっと。
その日を境にゼクストは体調を崩した。ドラゴンの毒が原因だった。
ジタン王は友を助けようとベガ国最高峰の治癒魔導師を派遣したが、貧しい移民の立場をわきまえてゼクストはその友情を受け取らなかった。ならば自分が治癒魔法を覚える、と言ったミグの献身的な看病生活は九年に及んだ。
ゼクスト――享年四十六歳。十八になったばかりの愛娘と、貧民になりすましたジタン王、テッサ王女に看取られながら、男は病で紫紺に変色した頬をわずかにほころばせ逝った。その遺体は娘と友たちの手で、森林地区の片隅にある墓地に埋葬された。
しかしその三日後、墓参りに訪れたミグが目にしたのは、掘り返された真新しい土の山だった。剥き出しになった穴の中にゼクストの体はない。遺体とともに埋められた金品を狙う墓荒らしの仕業だった。
周辺にある他の墓も同様の被害にあっていたが、遺体まで運び出されたのはミグの父だけだった。
「ジタン様! 至急ご報告したい議がございます……!」
やり場のない怒り、悲しみが拭えないままひと月が経ったある日、ベガ国全土を震撼させる事態が発生した。
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