09 烈火に微笑む少女②

 走り出すラッセンの足音を聞きながらゼクストは横たわるミグに触れた。その瞬間、熱に焼かれる痛みを感じて思わず身を引く。見れば手が震えていた。

 バカバカしい。ミグは俺の娘だ。

 迷いを振り切ってもう一度手を伸ばす。温かくてやわらかいミグのぬくもりを感じた。そっと揺すり声をかける。横に立ったジタン王からミグに注がれる視線を感じた。ゼクストははじめて王にプロキオン帝国から来たと打ち明けた時の恐怖と不安を覚え、内心舌打ちする。

 ジタン王にすがりつくテッサの、ミグを呼ぶ気遣わしげな声があったことが救いだった。


「う、ん……ゼクスト……?」


 やがて薄いまぶたが震え、ミグが目を覚ます。その瞳が慣れ親しんだ灰色であったことにゼクストは人知れず安堵のため息をついた。

 ミグはぼんやりと育ての親の顔を見上げ、ゆっくりとあたりを見回した。ゴオゴオと木々が燃え盛っている。根元が焼け、自重を支えられなくなった枝がさんざんと落ちていく。熱風に火の粉とともに舞い上がる灰は、まだ芽吹いたばかりの若葉たちだった。


「あ、あ……。ちがうの! “あの子”がやったの! ミグはダメって言ったんだよ!」


 にわかに顔を強張らせ取り乱すミグが口走った言葉に、ゼクストは思わず小さな肩に掴みかかった。


「覚えてるんだな! ミグ、“あの子”とは誰だ!? なにが起きたんだ!」

「わからない……わからない……。時々声が聞こえるの。でも、ミグも知らな……」


 萎縮し、恐怖に染まったミグの目からぼろぼろと涙が流れた。嗚咽に体を震わせながら大声を上げ泣き出したミグを、ゼクストは先走った自分を悔いながらそっと胸に引き寄せた。

 誰よりも困惑し恐怖を感じているのはこの幼子だ。しかしその恐怖――ミグが呼ぶ“あの子”という存在に呑まれない術を今、身につけなくてはならない。


「ミグ、よく聞くんだ。お前はもう二度と、攻撃魔法を使っちゃいけない。いいか、なにがあろうと絶対にだ」

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