試作21号「時には女子らしくと思ったのに」

 

 

 暗黒街を無事に抜けた私たちは西部に向けて馬車を走らせていた。

 

「うーん、こんなのは使いやすいか?」

「Good、これなら目立たなくていいですね」


 馬を操るビリジアンの隣で私は既存の銃をより小型にする設計を練っていた。

 

「カメリア何しているのかしら?」

「暗殺に向いた銃の設計」

「なんか物騒ね……」

「いや、よくよく考えたら現役で暗殺やっている人間から意見を聞かないのは勿体ないだろ」

「Wow、私が暗殺の経験あると知ったら最初ビビり散らしていた人がよく言いますね」

「うるせえ!」

「暗殺に使う銃か、参考までにどんなものか教えてくれないか」

「まず最も特徴的なのはサイズだな。ジャケットの内側に入れて隠せるぐらいだ。女なら足に布かなんかで巻き付けて目立たないようにもできる。そして確実な動作と最低でも連続で3発撃てる」

「なんで3発なんだ?」

「Answer、経験則上人間を確実に殺すとき、致命傷になり得る部位を3回攻撃することが多いからです。胴体なら肝臓や心臓を狙って3回ナイフで突き刺します。首や脇、内腿、手首などの動脈を狙うときも同様です。まず相手の手首を切り裂き、その流れで脇、背中に回り込んで左手で顎を持ち上げて動脈をズバッとやります。これも3回です」

「それなら同時に3発出るとかどうなの? まとめて出たら楽じゃ無いかしら?」


 なんともグレイらしい意見だ。確かに一度に何発も銃弾を発射できるのは強いかもしれない。


「同時か……鳥撃ちに使う銃にそんなものがあるな。ブランダーバスというケシ粒ぐらいの鉛玉、散弾って言うんだけど。それをみっちり詰め込んでぶっ放す銃だ。北部は鳥撃ちの習慣がないから私の店では取り扱ってないけどな」

「似たような例があるって事は有用性が高いってことじゃない?」

「確かにそうだな……これはこれで新設計案のひとつにしてもいいかもしれないな」


 そう返したらグレイは得意げな顔をしていた。設計も製作も私なのに。

 

「それなら私も良い案がある」

「聞かせて」

「弾を改造して中に火薬を沢山詰め込めるようにする。銃を使ってそれを飛ばす。着弾した場所でドカーンというのはどうだろうか」

「人間を木っ端微塵にしてえのか?」

「ザクロの果実のように肉片が四方八方に飛び散るだろうな。これなら一発で死んだかどうだかわかるじゃないか!」

「Grenadine……私の好物」

「ぐれな? ぐれねど? ぐれねーど?」

「Grenadine、南部ではザクロをそう呼ぶのです」

「ザクロがどう訛ってそんな言い回しになるんかね?」

「カメリア、どうだ私のは採用できそうか? ゆくゆくは弾の中で致死性の猛毒ガスを生成出来るようにして周囲一帯の人間を効率よく倒すなんてことも」

「いや、それ風向きによっては使った本人も死ぬだろ」

「そのために遠くへ飛ばすことが重要になるのだよ」

「参考になるんだかならないんだかわからねえな。あーでも建物とかに隠れているやつらには効果ありそうだな」

「そうだろう?」


 ブラックのアイデアは少々残虐的な気もするが画期的なのは間違い無い。今の技術では難しい要素が多いのも事実だが、実現すれば面白いかもしれない。

 まぁ、毒ガスじゃなくて、せいぜいタマネギを切ったときみたいに涙が出るぐらいの薬品を使っていたずらをするなら面白そうだ。

 

 私は羊皮紙にみんなの意見をメモする。


「ビリジアンは小型で携行性が高く確実な動作する銃、グレイは散弾をぶっ放す銃、ブラックは着弾時に爆発する弾を発射する銃か……できるかは別として設計思想としては面白いな」

「仕事熱心なのは良いけどほどほどに羽を伸ばしなさいね。西部についたら忙しくなるのだから」

「わかったよ」

「よろしい」


 私はメモを自分のバッグに入れて、それからボーっと過ぎる風景を眺める。

 遠くの方を見ると薄ら白くなっている山があり、もう雪が降っているようだ。あと何日もしないうちにここも雪景色になっているだろう。

 

 

 

「いやしかし、もう冬だな」

「そうね」

「冬と言えば、師匠が住んでいた国では主神様の生誕を祝う祭り、たしかクリスマスってのがあるらしい」

「アレキサンダー先生から聞いたことがあるな。確か家族で生誕を祝ってターキーを食べるとかだったな」

「トーゴ師匠は恋人たちが街に出かけて独身に嫌味を振りまくイベントって言っていたわよ?」

「Master、私の師匠であるゴーストはクリスマスに家族連れがはしゃいでいる。恋人同士が仲睦まじく歩いている姿を見て平和を感じるのが我々のあるべき姿のひとつではないかと教えを説いてくださったことがあります」

「ゴーストって幽霊かよ」

「Yes、結局最後まで本当の名前は教えてくださらなかったのですけどね。わかっていることは日本という国で生まれたこと。形容出来ないほど強かったことだけです」

 

「ちなみにトーゴ師匠も日本の生まれよ」

「日本とアメリカじゃこんなにも違うのか」

「らしいわね。しかし恋人……中々その手のものに縁が無いわ。はぁー……なにか良い縁談ないかしらね」


 グレイの年齢を考えるとそろそろ縁談が色々持ち上がるだろう。顔色から見るに辟易しているようだ。


「クリスマスらしく恋の話でもするか?」


 私だって色恋の話は嫌いじゃない。たまには聞きたい。今は銃の話をすることをグレイに止められているし、釣りの話はビリジアンしかできない。だから仕方なく、しょうがなく全員が話をできる色恋の話をわざわざ振ってやったんだ。そうだ。しょうがなくこの話を振ってやったのさ。

 

「そうねえ、ここは無難にどんな男性がタイプかみたいな話をするのはどうかしら?」


 如何にも女子って感じ良い感じだ。ここはブラックに火蓋を切らせるか。


「ブラッ――」

「カメリアから話しなさいね。言い出したのはあなたなのだから」

「ク、え、私?」


 先手をグレイに奪われる。

 いざ聞かれると答えに困るな。

 

「うーん、そうだな、やっぱ私より背丈は大きい方がいいな。顔はどっちかっていうとがっちりした方が好みかな。なよなよしてるのがあんま好きじゃない。竹を割ったような性格がいいな。バカでも良いから正直者がいいな。」

「ふーん」

「なんだよその顔は」

「男爵で良い感じの男性いるけど会ってみない?」

「グレイそれ絶対、絶対! そっちに来た縁談の当て馬だろ!」

「お貴族様のおこぼれよ?」

「うーわ、ねえわ、ねーよ」

「冗談よ。でもその気になったらいつでも言って頂戴。縁談なら家に帰る度に山のように手紙が届いているから」


 自分の部屋にそんな手紙が山のように積まれていたら辟易するだろうな。


「平民に興味ねえだろ」

「元貴族と言えば聞こえは良いから」

「吠えとけ、じゃあ次はグレイの番だな」


 これはささやかな私からのお返しだ。

 

 

「私より非力はダメ、私より頭が悪いのはダメ、金髪はダメ、私の話を聞かない人間はダメ、碧眼はダメ、私の話を理解できないのはダメ、伯爵はダメ、クラレント魔法国の女を無償で助ける男はダメ、聖女とベタベタしているのはダメ、アリアという名前の女の知人がいるのはダメ、私に並び立つ気概がない男はダメ。以上のことが守れない男は論外。ぶっこ……ご逝去お願い申し上げますわ」


 金髪、碧眼、クラレント魔法国、聖女って、これもう完全に元婚約者のリチャードを根に持っているよな。可愛さ余って憎さ百倍じゃねえか。

 

「要求が多いな、特に一個目のグレイより非力なのがダメな時点で絶望的だ。グレイ悪い事は言わない募集の枠人間以外も可と注意書きを入れることをオススメするよ」

「何ですってブラック? この世界は広いのよ。きっとこの世界には私より強い人が必ずいるはずだわ! 私は諦めませんわ」


「Everyone has the right to be stupid. But you are abusing the privilege」(意訳:みんなおバカさんになる権利はあるけど、あんたは権利を乱用しすぎだわ)

「何か言ったかしらビリジアン?」

「ビリジアンが訛り過ぎて何言っているのわからないくらい君の話は……その……ジョークとしては一流ってことさ」

「言ったわねブラック。じゃあ次はあなたの番よ!」

 

 

「ふむ私の好みの男か……まずは、銀髪であること、私をよく理解してくれること、優しいこと、私を信じてくれること、碧眼であること、絶対に私より先に死なないと誓ってくれること、正義感に厚いこと、私以外で薬物中毒の知人女性がいないこと、隣の墓に私ではない女の名前を墓標に刻むこと、あとは……そうだな……エド……じゃなくて、私が忘れたいと思わせない男だな。まぁ、このくらいで勘弁してやろう」

 

 おいこっちはこっちで未練たらたらじゃねえか、どっちも元婚約者を引きずっているけど、結果の出力が真反対じゃねえか。

 というかブラックよ元婚約者の名前をポロッと出すんじゃねえ。気まずいだろうが!

 

「碧眼を見ていると何だかイライラしてくるのよね。ええ、とてもとてもね」

「碧眼を見るとヒステリックを起こす病気かね?」

「今日のブラックお嬢様はお口が滑らかですこと」

「昨日食べたコンフィが良かったようだ。油を沢山使っていたから口の潤滑剤になったよ」


 口ではこう言っているがお互い目はとても穏やかで皮肉の言い合いを楽しんでいるようだ。

 しかし、このまま続けさせると二人の顔が見えていないビリジアンの胃に迷惑がかかるだろうから私は助け船を出すことにした。

 

「さて、馬の手綱を握っているビリジアンはどんな男が好みなんだ?」


 私が話を振ると、グレイとブラックは会話を止めてビリジアンの方へ耳を傾けた。

 

 

「Hmm……まずは生命力ですね。大自然の中を全裸で一ヶ月は生き延びることができる人、暗殺とかの仕事を容認出来る人、あと……その……突然私がいなくなって、ある日突然全裸で帰ってきたとき、笑って「お帰り」って言ってくれる人」


 なんだよ。意外とピュアじゃ……いや全裸で!! 帰ってくる!! シチュエーションが!! おかしいだろ!!

 

 この後ブラックがビリジアンの全裸サバイバルに興味を持ち、話題が色恋から遠ざかっていった。

 なんて言うか、こういう旅も結構楽しいな。

 

 私はそう思いながら西部への旅路を進んでいった。

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