幼なじみと魔神!? 美味しそうだ。


 俺は生きてしまった。まただ、俺は生きてしまったんだ。


 赤く赤く赤く、鮮血が飛ぶ。そしてアイラの身体が消えた。


 ポタポタポタと舞った血が地面に落ちる。


 もう俺には何も聞こえない。


「ハハ、ハハハ、ハハハハハ。ハハハハハハハハハハハハハハハ」


 女神が何か言っているが、聞こえない。止まらない笑い声に可笑しくなったんだと俺自身思った。もうそれを正気に戻す力もない。

 女神と戦ったこの場所は、女神が直してくれた。木々も復活し、地面に空いた穴も綺麗に。本当に俺がやったことは無駄以外の何物でもなかった。





 女神が去り、ここに残ったのは地面に着いた赤く鮮明な血の色だけ。

 それが黒くなるまで俺はボーと見つめていた。



 夜になり、星が瞬いた。


『ご飯ちゃんと食べるんだよ』

「アイラ、もう無理だよ。俺には……もう」



 手に持っていた剣の剣先を首に置く。


「暖かな剣だ。ありがとうな」


 ウンディーネが手伝ってくれているのか、スルンと首に刃が入る。俺は目をつぶったままで、来世に期待する。女神がいない明日を望む。






『水仙魔法の神秘を体現するのは、いつだって理不尽に抗おうとする諦めない想いですよ』


 女の人の声が聞こえた気がする。ぐっすりと眠った朝のように心が落ち着いて、枕が温かくて柔らかい。


 今俺は寝ているのか、さっそく目を開ける。


「ソフィア?」


 ソフィアが俺に膝枕をして、木の影で眠っている。


 ここは楽園か? そうか。死んだ俺にも楽園は用意されていたんだ。じゃあ、アイラもいるはずだと起き上がり、周りを見渡す。


「起きたの?」


 ソフィアが俺に言葉をかける。ソフィアを起こしたみたいだ。さっそくレベル上げの成果を自慢しようかな。ソフィアの顔を見ると、プーと頬っぺた膨らまして不機嫌顔だ、


「あぁ人族がウンディーネ様に膝枕なんてさせて、喜ばないなんて許さないんだからね!」

「はいはい、喜んだ喜んだ」


 ソフィアは変わらないな。


「ん? ウンディーネ様?」

「そう、様だよ様! ロウジーは僕が女神の領域から降りてきて、最初にスキルを与えた人族なんだから! もっと崇めてくれても良いんだからね! スキルを与えた瞬間に寝るんだもん」


【ロウジー】

スキル】 EX水仙魔法S(585685)1100 EX経験値増量 女神の加護 魔神の加護 


 ステータスを見るとロウ爺に力を貰ったのからは変わっていない。いや、十ぐらい違う。


 しかもロウジーって俺が言われているのか? ソフィアは俺に向かって話しているようだ。


「そういえば白い髪はどうしたんだ? そんな透き通ったような水色の髪も素敵だけど」

「僕は水を司る神様だからね。僕の水色の長い髪はそのアイデンティティさ! いつも見ているのに水色と白色を間違える可哀想なロウジーよ、ウンディーネ様はそれでも慈しみましょう」


 言動はソフィアなのに、ウンディーネ様なのか。ロウジーと呼ばれるこの身体。俺の髪を一本取ると白の髪だ。


 俺は誰かの身体に転生したらしい。ウンディーネがいるってことは何処かの世界か? 過去か未来か、俺が知っているウンディーネ様と違うのか? 簡単にここまで考えれる。


 俺のボロボロに砕けたはずの心が、意識がちゃんとあるのも不思議だ。ソフィアが目の前にいたから心が修復されたなんて、そんなご都合はない。


 この身体に元からあった心が記憶を受け継いだと仮定する。それなら納得出来る。実際このロウジーの心は絶望の現場を見てないわけで、その絶望の現場を思い出せば出すほどに心が痛い、折れそうになるが、折れない。


 ロウジーの心がそれは他人事と思っているから、折れないんだと思う。


 じゃあ、ロウジーの記憶は持っているのかと俺に問うが、覚えていない。


「ソフィ……ウンディーネ様、俺は記憶喪失になったみたいだ」

「そう。死にはしなかっただけでも儲けものだね」


 死にはしなかった? もしかしてロウジーが死んだから転生したのか?


「ロウジーが言ったんだよ、スキルがないからウンディーネ様と一緒のスキルが欲しいって。死ぬかも知れないよって言ったらそれでもって。他の女神には言っちゃダメだからね! バレたらウンディーネの教会とかがつくられるよ。二人の気ままな旅に終止符が打たれることになる」


 ウンディーネはガクガクと震えた。


「そうだな、二人旅はいいよな」

「ロウジーは記憶喪失の方が話しやすいよ。何でかな」

「何でだろうな、未来では幼なじみとして仲良く暮らしてたりしてるんじゃないか?」

「おっ、ファンタジーだね。まぁ、それはないよ。僕は死なないからね。唯一あるとするなら魔神の領域が狭くなって存在出来ないことになったら、転生するかも」


 ロウジー。ロウ爺。


 そう、俺はロウジーと自分が言われた瞬間から一つの可能性が頭の中にあった。


 俺は1000年のあいだロウジーとして生きる。俺がロウ爺と分かれば、ロウ爺が言っていた昔の友人というのは俺自身。


 それは似ているはずだよ。


 1000年間レベルアップしたところで女神は倒せない。待て、俺はいったい何時からこのループをしているんだ? 母女神の右腕は切ったが、それも直ぐに回復した。


 

「もしかして水仙魔法は必勝のスキルなのか?」

「う〜ん、神秘のスキルだからね。僕のスキルの中でも弱いって言う女神もいるんだけど、僕の中では最強のスキルをロウジーに上げたんだ、感謝するといいよ。水仙魔法は想い続けることで必勝のスキルになるのかもね」


 ソフィアみたいなウンディーネが俺に弱いスキルをプレゼントするはずは無かったんだ。想い続けることで必勝のスキルか。


「よし、次の村はイノシシ肉が名物らしい」

「美味しそうだな」

「ふふふ、行くぞ〜!」


 ウンディーネは笑って、二人並んで歩く。昔みたいに。



【ロウジー】

スキル】 EX水仙魔法S(2364827)1100 EX経験値増量 女神の加護 魔神の加護


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る