幼なじみと好き!? おはよう。



 俺は母女神に聞くことにする。敵対の意思があるのかと。死んだ女神は母女神とか関係がない事も考えられる。人族に負けそうになり、母女神が丸眼鏡女神を負ける前に処刑したと。これは人族と女神との上下関係を守る為のルールで有りそうな事だ。


「戦うしかないようだな」

「何故ですか?」

「帰ってくれるのか?」


 丸眼鏡女神よりも最高神の方が望みがあるのか?


「はい、魔神の加護を持っている人族を殺したら帰りますけど」

「ビックリさせんなよ。俺が戦うことは変わらない」

「戦っても、戦わなくても、運命は変わらないのですよ。命を無駄にするだけです」


 最高神は人の心が分かってないらしい。で、母女神は分かっているのだろう。俺と女神の実力差が。ロウ爺に力を分け与えられても運命は変わらないですよと、変わる事ない事実を淡々と語る。



 肌寒い今日みたいな日だったな。俺が手に持っているパンを鳥にサラッと奪われたように幼なじみが死んだのは。思い出しても全然、不思議と夢だったんじゃないかと今でも思っている。


 そう、朝起きたら、ソフィアが「おはよう」と言ってくるような。


 でもそれはアイラと積み重ねた俺の一日一日が夢じゃないことを証明している。俺にはそれも大切な思い出だ。



 ジャリと砂の感覚を足に感じ、足に力を込める。剣は空を描き、剣先は女神へ向ける。左手は剣先に添えるだけで、剣の震えが止まる。


「おい女神、やってみないとわからないぜ」


 俺はわかってる。母女神との実力差は俺が百万年レベル上げをしたって覆ることはないだろう。


「それぐらいの実力があれば、私と貴方の実力差なんて簡単に分かりそうなはずですけど、人族の考えはわからないですね」


 母女神は俺と話をしても無駄だと思ったのか歩き出す。



 俺は歩き出したのに合わせて、最大に溜めたオーラを纏う剣を縦横無尽に女神を叩きつける。


 何百と、何千と、何万と、歩みを止めるまで、俺が剣を止めることは無い。


 だが、女神の肌は傷つかず、歩みを止めることも無い。しかも俺に女神は攻撃もしてこない。ただ歩いているだけ。


 これはあんまりだろ、わかってた……わかってたよ。でも俺は俺が抵抗したら数秒だってアイラが生きれる時間が伸びると思ったが、そんなご都合は本当にないらしい。



 ……心が折れそうだ。



「もういいのですか? 気が済みましたか?」


 剣を止めた俺に女神は向き直り、優しい笑顔で淡々と語る。


 身体は膝から落ちて、目を見開いたまま、女神を見送った。


 剣を振るのをやめたら、アイラの生きれる時間が数秒伸びた。



 さっきまで動け動けと言っていた身体が、動けるのに動かない。気持ちをどっかに置いてきたのかと感じるほどに、俺の心には何も無い。


 また俺は絶望する。いや、もうしている。



 そうだ、アイラと転移しよう! どこへ? 


 俺の思考はそれで止まった。






「ライヤ! ライヤ!」


 アイラの声が聞こえて、霞む目を、ボケる視界を、パチリパチリとアイラの顔に合わせる。そして横に女神がいる。


 なんだ。


「貴方に別れの挨拶をと言われまして」


 そう言うことか、アイラも分かっているのだろう。俺が守らなかったことぐらい。


 アイラは俺の前に顔を前まで来て、ぎゅっと抱き締める。


「ライヤごめんね。アイラは海の街に行けないよ。う〜ん、アイラが死ななければいけないって聞いて、別れの言葉を言わないといけないのに、何を言わばいいかわかんないや。


 ライヤと会って毎日毎日幸せで、いつ死んでも可笑しくないと思ってたから、その日が来たんだな〜って思うだけ」


 顔を付き合わせるとアイラはハニカムでいる。俺の顔は鏡を見ないでも分かる。顔は酷く、鼻をすすり、口を開けて、眉を下げ、涙を流している。威厳もない。


「ライヤとアイラに別れの言葉とかは、必要ないよね。だって別れたくないんだもん。


 好きなことたくさん、たくさんあるんだけど、衛兵さんの皆んなを守る姿が好き。仕事を頑張ってるのにアイラのデートに付き合ってくれるのが好き。


肩車してくれるのも好き。昼の仕事の時に見回りをされてくれるのか好き。寝る時に絵本を読んでくれるのか好き。朝夜のご飯をちゃんと食べてくれるのが好き。


朝起きて居てくれるのが好き。アイラとライヤがあった記念日に毎回プレゼントを用意してくれるのが好き」


 俺は相槌を打つことしか出来ない。


「それはどこまで続きますか?」

「……もう終わりみたい」


 アイラの好きを優しく淡々とする言葉で切れる。


 そしてアイラは俺から離れる。弱々しい手でアイラを捕まえようとするが、掴めない。


「ご飯ちゃんと食べるんだよ」


 最後のアイラの言葉と共に、俺の視界は真っ赤に染まった。



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