幼なじみの土産!? 冗談じゃねぇ。



 女神がいて俺がすることは決まっている。ぶわっとオーラが俺の身体から溢れ出す。


 逃げる! だ。


「アイラ掴まれよ!」


 俺は手荷物ぶん投げて転移に移る。フッとこの場所から消えていく感覚を覚えて……だが、


「転移できない」

「この前とは別人じゃない、私を置いて逃げるなんて選択をするなんて。しかもそれが出来るほどの力を貴方は持ってそうね。でも残念、私の結界をすでに張り終えた。逃げようとしたって無駄よ」


 上を見ると薄く紫色の膜が張ってある。


 次は俺を殺しに来たのか? 違う、殺しに来たならあの時にやっているはずだ。女神は約束だと言った。


「俺は約束は破っていないはずだ! なのになんで」

「はぁ? あぁ、知らなかったのね」


 女神が眉を寄せたあとに、納得したのかニヒルに笑う。それで分かったような気がした。



「貴方の抱えているその女の子は……」


 待て待て待て、嘘だ、嘘だ、嘘だ。



「加護持ちよ」



 頭を叩かれたみたいだ。俺は今、どんな顔をしているのだろう。力が抜け、立っていられなくなる。どうでもいいと全てを投げ出したくなる。


「ライヤ」


 でも俺は倒れなかった。アイラが俺を支えてくれたからだ。支えてくれて、俺に手を差し伸べてくれたのはアイラだった。


 俺はアイラを強く抱え込む。


「加護持ち、それがどうした! アイラは俺の娘だ。魔神側にはさせない。それでいいんだろ!」

「何を言っている? 貴方が私から隠したせいで、魔神の器がもう少しで完成しそうだった」

「魔神の器?」


 魔神の器というのは何だ? 魔神をここに呼べるのか? そんなことはどうだっていい。


「もう魔神の加護まで持っている。このままだと女神の領域まで危険をもたらす、その娘は殺すしかない」

「女神……俺が命に代えても魔神に力を貸すことはさせない。それでもアイラを殺すのか?」


「えぇ」

「後悔するなよ、その決断を!」


 女神の返事で、俺の腹は決まった。首のネックレスを引きちぎる。


 ガンガンと溺れるほどのオーラを注ぎ込み、天にまでオーラを立ち昇ると、天から聖剣を出現する。それは偽物じゃない、本物でもない。水仙魔法の原初の剣。


 空の雄大な色と雲の捕らわれることのない色を孕んだ剣。


 その剣は女神が張った結界をものともせず天から地面に刺さり、俺はそれを引き抜く。


「冥土の土産に女神を倒したも、入れとかねぇとな」


 グラグラするほどに熱く煮えたぎる身体を理性でギリギリ保たせる。剣で空を撫でて、強く硬く柔軟に剣を握り込む。


 白く纏っているオーラが、今までにないほどに荒ぶり、剣に纏わせている青のオーラは今までにないほどに静かすぎる。


 俺の剣に何を感じたのか、女神も剣を空間から出現される。


「ウンディーネ様の剣、なんで貴方が」


 俺に繋がっている魔神もこの剣を使っていたのか。


【ライヤ】

スキル】 EX水仙魔法SSSSSSSSSSS1100 EX経験値増量 



 俺から剣劇の幕が上がる。一と二歩で歩き、アイラを抱えながら水平に剣を振る。剣を合わせた女神は、驚きと共に、押し負ける。


 吹っ飛ばされた女神は遠くで、地面を引きずり止まった。


「ライヤ、アイラのせいで」

「アイラのせいなんかじゃない。アイラが今考えることは今日のサーザルの街での晩ご飯、何にするか考えといてくれよ。山の幸とかは止めてくれ。海が横にあるんだ、海鮮バーベキューなんかいいな」


 アイラに頼んだぞと言う。俺の腕からアイラを解放すると女神を睨む。


 

 俺は女神に一歩、二歩、三歩、四歩で近づき、剣を上段から打ち込む。俺と女神の打ち合うと女神の立っている地面がへこむ。今回は油断なく構えていたのか、女神を押し合いに負けることなく、俺の方が弾き返された。


 地面に着地せずともオーラを足場に、女神に接近する。下に弾き返されれば地面に着地して下段から剣を振り、上に弾き返さればオーラが足場になり、上段から剣を振る。


 女神が吹き飛ばされば、追いすがり剣を振る。女神が地面を引きずってても俺は知らんと剣を振る。


 一の打ち合いが、閃光の間に千にも万にもなる。


「知ってるよ。俺よりも努力した奴が女神に負けたってことを! じゃ、俺はまた……また……大切な者を指をくわえて奪われろって言うのかよ! 冗談じゃねぇ」


 数瞬の希望ある未来を手に入れるために力を込める。上段から剣を振ると女神の剣が折れた。


 やっと守る物の無くなった女神。


 俺は剣を女神に向ける。オーラが渦を巻き、剣が光り輝く。


「おい、最後の言葉だけ聞いてやる」

「!!!」


 俺は女神が口を開けた瞬間に剣を差し込んだ。


「あぁ、幼なじみたちによろしく言っといてくれや」


 口に入った剣は上方向へと力を加えると抵抗なく女神の頭を切り裂いた。そして上から下へ。女神だった者は二つに裂けた。

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