幼なじみと赤色!? めんどくさいな。
デテールの街は街の中に川が流れている。橋のそばについて、少女は川に続く斜面を降り始めた。俺も少女について行く。
少女は器用にとは言いづらく、不格好に滑り、転けながら橋の下へ行く。大人の俺が屈んでやっと入れるかなというぐらいの場所にマットと毛布が置いてあった。
ここで寝てるのか。
「良い場所だ」
そう褒めると、満面の笑みで鼻歌も歌い出した。俺はあぐらで、少女は川に足を向けている。まったりとした時間が流れる。
「じゃ、帰るか」
俺が帰ろうとした時に、少女は俺の服を掴んできた。目に涙を貯めて悲しそうに服を引っ張る。
「お前も来るんだよ」
「くる?」
孤児なら俺が貰っても良いだろう。
「お前の名前は、う〜ん。アイラだ! 同じ黒髪だし、兄妹っぽいだろ。いや、俺の子供になるのか?」
「あ、い、ら?」
「お前の名前がアイラ」
「ア、イ、ラ。ア、イ、ラ」
アイラは気に入ったようで、自分の名前を連呼して、その度にキャッキャとはしゃぐ。
「アリア、ラリアと、いっしよ」
「そうだな。次は俺の家を紹介するか。こんなに景色が良いところでないが、気に入ってくれると嬉しいな」
汚れも川で落として、服屋で綺麗な服を着せて外を歩くと、可愛いという声は掛けられるが、孤児だとは全然言われなかった。でも一軒のパン屋の女の店員がアイラを見てビックリしてたなと思う。そして笑顔でアイラに手を振る、アイラも返す。その店員の目に光るものが見えた。
それからだ、その女の店員さんと一緒の行動をする人が沢山いた。アイラが生きる希望を与えていたのは俺だけじゃなかったんだなと思った。
この通りの店に愛があったからこそ、アイラは生きていけたんだろう。ペットに餌をやる感覚だったって別にいい、この街は一人養うのもギリギリだ。その少しの分け与えでアイラが生きていたことに感謝こそすれ、罵倒しようとは考えてもない。
「ラリヤ、いっしよ」
俺はアイラを担いで、皆んなに見えるように歩いた。
更衣室のロッカーを閉める。最近の事なのに思い出して懐かしくなるって、俺はだいぶ歳になったみたいだな。その家も衛兵が住むところだったから、すぐに引っ越したんだよな。
俺の日常に衛兵の仕事とレベル上げ、そしてアイラとの時間が出来た。
「ただいま」
「ライヤ、おかえり〜」
そういえば思い出のアイラは片手で持てるぐらいの大きさだったが、随分と大きくなったな。今は俺の腹上ぐらいの身長がある。
「なにボーッとしているの?」
「アイラが随分と大きくなったなと思って」
「そりゃ私と会ってから五年も経ったら、大きくなるでしょ」
五年? 何年かは経っているよなと思ったが、そんなに経っているのか。毎日代わり映えがない日常っていうこともあるが、楽しい日常はすぐに過ぎていく。レベルアップとアイラの思い出作りが俺の生き甲斐になって五年も過ぎたのか。
でもまだまだアイラは子供だ。さらりとロングの黒髪に、端正な顔立ちと、可愛い娘だ。本当に俺の子供かと疑われたことすらある。まぁ、違うんだけどな。
衛兵も夜勤の方が多い。それもアイラとの時間を長く取りたかったからで、朝と夜はアイラにご飯を作ってもらって、昼はデートだ。
朝から仕事の時に、夜は水仙魔法のレベルアップを主に行っている。纏うだけでもレベルアップするんだけど、やっぱり多く使えば使うほどレベルアップする。
朝ごはんを食べながら、デートで行くところを決める。だいたいがアイラの行きたい所だ。父親なら娘とのデートはお約束だろ。俺もそんな親バカになるとは思わなかった。
「今日は外に一度は出てみたい!」
「そとか」
女神の監視している門には行きたくない。せっかくロウ爺が門に入らずに転移で俺をデテールの街に送ったのに。でも俺は何も悪いことはしてない。約束は破っていない。
「いいよ。サーザルの街でも行ってみようか、少し遠いけど海鮮が有名なところなんだ」
「へぇー、かいせん」
じゅるりとヨダレを垂らすアイラ。ヨダレをハンカチで拭き取る俺は完璧に親子だろ。
衛兵も休め休めと言われているから、しばらく帰ってこなくても良いだろう。アイラが昼ごはんの弁当を作り終えて、出発する。
門で衛兵の人に最長でも一週間休みが欲しいと話すと、一ヶ月ぐらいは任せろと言われてしまった。ぺこりとアイラがお辞儀すると、衛兵の皆んながメロメロになる。最後には一年は任せろ! と言っていた。
門を通って、サーザルの街へ。
だいぶ街から遠ざかって、街が見えなくなった。
「ふふ、一年だって。おじさんたち面白い」
「良いヤツらだよ」
「ライ……!」
アイラの手を引き、俺のそばへ。
「あれ、前は反応すら出来なかったのに」
忘れもしない赤ジャージ。
「めんどくさいな」
俺から幼なじみを奪ったあの女神が目の前にいた。
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