幼なじみのラリヤ!? キレイ。


 少女は衛兵になってからも見かけない。教会が保護したのだろうか。たまに見回りの時に路地裏を覗きに行くが、お供え物もなかった。

 あの笑顔が俺に前を向いて生きて行こうと思わしてくれたんだ、また会いたいな。お礼が言いたい。


 また今日も路地裏に行くっていうんだから、俺も少女にだいぶお熱だなと思う。


 角から路地裏を見てみると居ない。そりゃそうかと路地裏を後にしながら歩く。ガタンと路地裏から音がなった。


 それを不審に思いながら路地裏の奥へと進む。すると俺が入れなかった家と家の隙間に少女がいた。いつから居たんだ? 寝息をたてている少女は生きている。ちゃんとした食べ物は食ってないだろうが、ちゃんと飯は食ってたみたいだな。


 それよりも痛々しい痣が顔につけてある。一ヶ月前にはなかった痣だ。まさか金貨を狙われたんじゃ、そうだ、使い方も分かってなさそうだったしな。

 少女は手で自分の顔を擦ると、俺と目が合った。少女は口を開き、驚くような表情になると起き上がって、後ろを向き、何かをやっている。

 笑顔で俺に振り返ると、割れた皿に出てきたのがカビたパンに乗ったハムの切れ端、潰れた魚のムニエル、欠けたコップに出てきたのがうっすいぶどうジュースみたいな物で、地面には虫が湧いたゼリーと豪華フルコースだ。


 俺は地面にあぐらで座ると、手を伸ばし、出された物を一つ一つゆっくりと口に入れた。


「キレイ、トララタ」


 金貨を取られたのか。少女は下を向き、涙を流す。こんな小さい子が涙を流して声を出さないなんて、それも生きていく上で学んだのか。


 こんな子に金貨なんてやったら普通は分かるが、俺は普通じゃなかった。それよりも少女が無事で良かった。俺はムニエルを食べながら左手で頭を撫でる。砂が混じったゼリーをジュースで喉に流し込むと立ち上がる。そして少女の抱きかかえて、路地裏を歩き出す。どこに行くのかと少女は首を傾げている。



 俺は椅子に少女を下ろした。少女はキョロキョロとしている。


「おい、子供に人気な奴をこのテーブル埋め尽くすぐらい持って来てくれ」

「? 衛兵さんでもそう言う冗談は言っちゃいけねぇよ」

「……さっさと持って来てくれ」


 少女を見ながら女の店員に冗談だと思われたみたいだ。店員に金貨を投げる。金貨を渡した店員さんがキビキビと働き出した。


「俺はこの子から豪華な飯を用意して貰ったんだ。こんなんじゃお礼したうちに入らないよ」

「キレイ、あけたの?」

「そんなのよりも、君にあげたいのがある」


 キレイが金貨だと思っている少女に本当の綺麗をプレゼントしようかなと思って、用意していた物だ。ポケットから箱を取り出して、少女の目の前へその箱を置く。


 ハテナマークを出した少女に、箱を開いてやる。少女が手に取ると黄色に光る太陽みたいな宝石のネックレスだ。「キレイ」と言う。

 ネックレスと俺を交互に見て、俺がネックレスを取り、少女の首に掛けてやる。黒い髪と合わさって宝石が輝いて見える。

 ネックレスを首に掛けてやる時に、水仙魔法のオーラも分け与え、少女の身体を癒す。すぐに効果が出て、痣が消えていく。飯を食い終われば、どんな病気も傷も全快になっているだろう。


 少女は宝石に夢中になっているとテーブルに料理が運ばれだした。「食べていいよ」と言うと、目を再度輝かして一生懸命に口の中へ放り込み出した。

 俺も少女が遠慮なく食えるように、食事を手づかみで口へ運ぶ。テーブルのマナーはない。フォークとスプーンは置物としての地位を確立していた。


「うま、うま……」


 うま、うま、うま、と言いながら少女は涙を流す。こんなに温かい料理は食べたことがないという風に、舌を時たま気遣っていた。

 お子様ランチの旗が気に入ったのか、旗を左手に持って、右手でガツガツと音を奏ながらのランチに、他の客も度肝を抜かれていた。金貨は迷惑料も肩代わりしているのか、店員は何も言ってこない。



 テーブルにある料理を食べ尽くして、二人で腹を擦る。長居してもいけないから、立ち上がり、少女を抱え店から出ていく。



「あいがとう」

「あぁ、どういたしまして。君は名前はあるのか?」


 キャキャキャッと、はしゃいだ少女に名前を聞こうと思ったが、首を傾けてハテナマークを浮かべた。


「俺の名前はライヤ」

「ラリ、ヤ? ラリ、ヤ?」

「ライヤだ」

「ラ、イ、ヤ」


 そうだ、と言うと笑顔を撒き散らす。


「君はいつもどこで寝ている?」


 そう言うと少女はキリリとした視線をやって、抱えてた手から降りた。そして走る。すぐにチラリと振り返り。


「ラリヤ! ラリヤ!」と間違えたままの俺の名前を呼んで、手をヒラヒラ扇ぐ。


 案内してやるから来いと。


「へいへい、分かりましたよ。お嬢さん」


 

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