幼なじみの土産話!? あいがとう。


 俺は今、デテールの街で衛兵をやっている。この日常にも慣れてきた。

 デテールの街は、サーザルの街とギーギルの街の中間にある街だ。ソフィアと魔族領へ行く旅で通らなかった街だ。


 衛兵として長くない時間は経過して、深夜帯の時間を率先して受ける俺は評価が鰻登りにあがっているらしい。


「おいライヤ、あがっていいぞ」

「ウス」


 お日様が顔を出して、夜の街が明るくなり、ザワザワと忙しくなってくる。

 更衣室に入り、鎧を脱ぐ、半年? 一年? 着てれば手馴れたもんだ。





 最初は衛兵になろうともしなかった。裏路地で座りながら俺は死ぬのを待っていた。自分の剣で楽に死んだら、俺は本当になんにも無くなってしまう。それが心底怖くて、死ねなかった。俺は無気力でも生きた証が欲しかったんだ。


 水仙魔法の効力は絶大で何日も何年たっても、死にはいたらなかった。腹の虫も死んで、随分経つというのに俺は死なない。甘えた俺の考える生きた証の答えがこれなんだと理解する。あとは死ぬだけだ。



 裏路地で無気力だった俺に一人の幼い少女が食べかけのパンをくれた。


 それから毎日来て、食べかけの果物や、焦げたパンケーキ、少し身がついた魚の骨、いつのものかも分からない虫が湧いたサンドウィッチ。食べれそうな奴は俺の目の前に献上される。


「ア、ア」


 いらないよ、と言ったつもりが声を久しぶりに出したからか上手く言葉に出来なかった。俺の声を聞いた少女は身体をビクッ! とさせると、逃げていく。そして遠くの方の角から、ジッと見つめられる。

 ジーッと、ジーッと、その視線にやられて、ヌメヌメしている砂でコーティングされた餅を持ち上げて、口に入れる。味がしないのが、救いだった。前の俺じゃ、頼んでも食わなかっただろう。少女は俺が食ったのを確認すると、笑顔になって去って行くのだ。


 俺にこんなことをする物好きがソフィア以外にもいるとは世界は広いなと初めて思った。



 ある日少女が新品のパンを持ってきた。少女は孤児だろう見た目をしている、そんな金はないはずだ。笑顔で持ってくる少女に俺はポケットから金貨を取り出して、あげた。このパンが貰ってきたパンだったら必要ないが、盗んだパンだったら必要だろう。盗んだパンであっても金貨を渡せば丸く収まる。

 少女はそれが何なのか知らないのか、「ピカビカ、キレイ」と言うとギュッと両手で握りしめた。


「あいがとう」


 渡した金貨はお礼だと思ったらしい。まぁ、たいした違いはない、俺は首を縦に振って、感謝を受けた。少女はそのまま走ってどこかに行ってしまった。ジーッと角から見る気配もしない。



 それから少女は来なくなってしまった。次の日も、次の日も、次の日も、少女もやっと飽きたのだろう。

 少女の登場を待ち侘びている俺がいるのが、少し新鮮に映った。でもそうだよな。何が生きた証だよ、死んでアイツらになんて言う。路地裏で死んだって? 餓死したから許してくださいってか? ソフィアがそんなの許すはずない、エリアーナが、チャロが、アレックスが許すはずない。


 自分の精一杯で生きて、土産話も沢山作ろう。


 あぐらで固まっていた足を崩すと立ち上がる。血が足全体に走っている。ピリピリと内側からは痛みが感じるのに、外側からの何も感じるものがない。もしかしたら俺は水仙魔法があったからこんなことで済んでいるが、もしなかったら歩けなくなっていたのかもな。


 少女は俺の甘い考えを変える力があった。まぁ、ソフィアに似ていたというのが大きい。アイツも少女と同じで、ちっちゃかったしな。


 また始めてみよう。女神に勝つようなことをしなければ、水仙魔法は絶大な効果を発揮するのは知っているじゃないか。


 路地裏から外へ出る、太陽の光が眩しくて、鎖から解き放たれたみたいに精一杯伸びをする。



 まずスキルも死にものぐるいでレベル上げていった。それと並行して仕事を探し始めた。そして衛兵という仕事を見つけた。


 仕事の時間以外が水仙魔法のレベル上げた。俺には経験値増量のスキルがある。精一杯生きようと思ったら、思い浮かんだのがレベル上げだ。水仙魔法は死ぬまで上げたらこんなに上がったぜと死んで自慢するためだ。


 俺はデテールの街に来てから、一睡もしていない。眠ろうとすると女神と会って、あった出来事を鮮明に思い出す。でもそれのお陰で俺はもう眠らないでいいことを知れた。これも水仙魔法の効果だろう。


 俺が精一杯に生きようと思って一ヶ月が経った。



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