幼なじみと女神!? 約束ですよ。


 女神はソフィアの身体を貫いている腕を振った。ソフィアは女神の横側に放り投げられる。赤ジャージを着ているから、あまり血が分からないと思ったが、段々時間と共に赤い血が黒くなっていく。

 ソフィアの所へ今すぐにでも行きたいが、心が叫んでいる気がした、女神から目を離したらダメだと。


「感じる」


 女神はキョロキョロ見渡して、俺をまた見ると。


「ウンディーネ様が力を貸しているんですね。


 あぁあぁあぁ! いつまで私たちを不快にしたら気が済むんですか! ウンディーネェ!」


 ウンディーネ様? 俺が様付けに疑問を覚えていると、女神が、あぁ、と段々声が大きくなり、俺を睨みつけながら言葉を吐き出した。

 内から今までにない量のオーラが溢れてくる。俺は情報を整理していく。


【ライヤ】

スキル】 EX水仙魔法SSSS91 EX経験値増量 


 オーラが熱く感じる、ウンディーネは俺と違って怒り方を知っているのか。

 首の剣を取り、素早く力が乗りやすいように大きくする。


「私たちと勇者と加護持ちでやっとこの世界から貴方たち追い出したのに、女神は管理者こそがふさわしい! 下界に降りた貴方たちとは違う」


 もともと魔神は女神だったのか。


「まぁ、私はウンディーネ様の顔が見たかったんですよ。優しさを持って知恵のある人族に領域を与えた貴方が、人族に領域を奪われた瞬間を貴方はどんな顔でした? 魔神族は透視で見れないのですよ。


 力を貸している人族を殺せば、貴方は出てきてくれるんですかね。もう一度顔を見せてくださいよウンディーネ様」


 女神の横にいるソフィアを転移で、ガランに預けた。チャロでも、エリアーナでもなくてガラン。俺は今は身体全体の神経が敏感になっているのか、後ろにいるガランのビックリしている姿が見ているかのように分かる。ソフィアを救えるのがこの中で、ガランしかいない。


「ウンディーネ様は、お前なんか知らねぇてよ」


 心臓が鷲掴みにされたような殺気を浴びる。ガランはその殺気を浴びて、ソフィアと一緒に影に入ると消えた。




「嘘だ! ウンディーネ様が私を忘れるはずがない」


 シーンと静まり返った王の間で、口火を切ったのは女神からだった。


「うんうん、うんうん。……お前はウンディーネに御熱心って感じだけど、お前なんか記憶にないって。お前人族と魔神との間になにかやったの?」


 ウンディーネの心の声が聞こえる訳じゃない。人族と魔神との間に女神が入ったことは明白だ。でも自分に気付いて欲しくて欲しくてどうしようもない、こんな構ってちゃんには付き合わない。この女神はウンディーネに憧れを抱いていたかもしれない。


 ソフィアが女神から攻撃を受けた時に、チャロなら即女神に攻撃しそうだが、剣の柄に右手を置いたまま固まっていた。女神はチャロが自分を守るだけで手一杯になるほどの実力か。


 エリアーナも戦闘体勢に入っている。チェーンが付いている短剣が宙に二本浮いている。


 味方がこんなにいて、負けるなんてありえない。


「俺は人族なんかどうでもいい。お前はやりすぎたんだ。生きて帰れると思うなよ」

「あぁ、水仙魔法は女神特化のスキルだからそんなに余裕を持てるんですね」


 女神は落ち着きを取り戻して、ハハッと鼻で笑いながら俺を馬鹿にする。


「女神が降りてきて。その意味がわかっているのが、加護持ち最強を謳うチャロ・ラックレイだけとは」



 俺の目の前にチャロがいた。えっ、とビックリする間もなく、腕を貫かれた状態で現れたのだ。右手の剣は抜かれ、折れていた。


「ほら、加護持ちに守られなかったら死んでますよ」

「ラ、イヤ、に、げ……」


 後ろにいる俺にチャロが首を回して逃げろと言った。目から光が消えて、最後まで言うことはなかった。


 チャロもソフィアみたいに放り投げると、女神は消えた。


「ウンディーネ様は、なんで貴方にそのスキルを上げたのでしょう」


 後ろから声が聞こえて、後ろを振り返る。エリアーナが胸を貫かれていた。


「どういう事だ?」

「ウンディーネ様に聞けばいいじゃないですか。なんでウンディーネ様のスキルの中で一番弱いスキルをあげたんですかってね」


 エリアーナは言葉も発さず、女神に無造作に放り投げられる。一番弱いスキルだと?


「この世界で暮らして行くには充分すぎるスキルですけど、女神と戦うなら役に立たない、ゴミスキルですよ」


 剣をかたく握る。どこから攻撃されてもいいように。


「あぁ、そんなに緊張しなくても貴方は殺さないですよ。そのスキルぐらいなら殺す価値もない。あと貴方は加護持ちに合わないでください」

「なぜだ?」

「まだ分からないのですか? 貴方が関わったからこんなに加護持ちも死んだんです。処分するのはエリアーナ・アイム・アフィーリアと、アレックス・ロデルラインだけで良かったのに。


 今後、魔神族側に加護持ちがついて、貴方がいたら貴方と残った加護持ちを全員殺します。良いですか、約束ですよ」


 女神はそれだけ言って消えた。アレックスを殺しに行くんだろうか。


 皿洗いスキルじゃなかったらと、どんなに思っただろう。攻撃スキルを覚えたら、騎士になって皆んなを守ると。


 目の前には……守れなかった幼なじみ。


 こんなことになるなら始めから皿洗いスキルの方が良かったと初めて思った。


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