幼なじみの怒り!? 裏切ったのよ。


 エリアーナかもう戦う気が無くなったのか、俺に背を見せる。歩きながら手を頭上に上げて、パチンと鳴らす。


 すると俺の見ている景色が全く別の場所になった。王城の王の間にそっくりだ。エリアーナは豪華な椅子に座る。

 ガランは膝を着いて頭を下げていた。周りを見てみると気づく、チャロとソフィアも居た。


「ねぇ、エリアーナ。さっきのキスはどういうつもりなのかな」

「どうもないわ。ただソフィアとは一歩差をつけただけ」


 エリアーナとソフィアが目線を交わし、バチバチと火花が散っている。本当にハーレムみたいだ。チャロが言っていた事は本当だったな。


「まぁ、水仙魔法がアレックスを退けるまでに成長してて、良かったわ。本気で殺しなさいと言っておいたしね」


 ソフィアとの目線を切り、俺に移す。じゃガランも手段は選んでないが、俺のレベル上げを手伝っていた? 


「俺が覚醒したのも計画に入っていたのか?」

「いや、あれはもはや奇跡ね。最高神の魔神がいるという事は分かってたの。人族が好きだった彼女は人族が危険に陥ったら霊体としてでも出てくると思ったのよ。でもライヤの中にいたなんて、奇跡でしょ」

「エリアーナ、お前。アイラが死んだらどうするつもりだったんだ!」

「私がいなければ、もっと悲惨なことになってたのよ。過激派を舐めない方がいいわ」


 エリアーナの言う通りかもしれない、村を一つを掌握出来るほどの力があるなら、もっと死人が出ても可笑しくなかった。もうちょっと範囲が広ければ、俺はアイラを救えなかったかもしれない。


「でもアイラを助けてくれてありがとう。過激派は加護持ちを殺したいようだけど、私は幼なじみも助けたい一心で穏健派のリーダーになったんだから」


 そうか、エリアーナも加護持ちを守っていたんだな。魔神も魔族側の方が情報を掴みやすかったのだろう。


「ん? 俺は? 最初の事件の時に俺は加護持ちじゃないし、水仙魔法も持ってなかったら? 俺がアイラとソフィアに合わなかったら? 俺は死んでないか」

「ライヤが関わった最初の事件ね。そうよ、だってライヤは死んでるか生きているかすら分からなかったんだもん」


 こんなに幼なじみと会って忘れていた。俺はコイツらから一度は逃げたんだと。死んだからどうだと言うんだ。


「悪い」

「なにが悪いよ、私はまだ逃げたことを許してはないんだからね。今までライヤと会ってきた気前のいい幼なじみとは違って。


 アンタは自分が何をしたか分かっているの? 家族よりも深い絆のある私たち裏切ったのよ」


 エリアーナは肩で息をして、深呼吸をして落ち着こうとしていた。幼なじみに会った時に、裏切り者と言われることは想定できた。でも再会をしてみたら、昔と同じに接してくれて。俺は心底嬉しかったと同時に、俺が逃げた罪は軽い物だったのかなと、勘違いするまでに至った。優しい奴らばっかりだからな。


 エリアーナはそこは言うやつだったな。誰よりも優しくて、誰よりも怒って、誰よりも笑う奴だった。


 エリアーナでこれなら、幼なじみのカオルに会った時は、腹を切られるじゃないか? 切腹? 切腹はカオルが責任の取り方だと教えてくれた。カオルの国では責任を取る時に命をかけるらしい。


「俺は本当に馬鹿だ」


 家族よりも絆があるとエリアーナは言った。俺の両親は鍍金の勇者と呼ばれた辺りから蒸発したらしい。でも幼なじみたちは、それでも俺のすぐ隣に居て。


 幼なじみは原石だった。磨けば光る原石。近ければ近いほど、その原石に当たって、痛かった。俺は至る所にあるタダの石だからな。その現実に、しだいに悪い感情が俺の周りについて行くようになった。それを幼なじみには知られたくなくて、逃げたんだ。

 離れてみれば、空に上がって、お星様になっていく幼なじみを見ていて、羨ましかった。そして俺は幼なじみの情報からもシャットアウトした。



 パチンと鳴ると、頬が痛くなる。俺が現実に帰ると、ソフィアは目から涙を流して、手を庇っていた。


「ライヤでも、ライヤのことを馬鹿にするのは許さないんだからね!」


 そうだ、怒るのはソフィアに任しているんだった。自分に対しても怒られるのか。

 ソフィアの頭を撫でる。


「ごめ……ありがとうソフィア」

「どういたしまして」


 謝ろうとしたら睨まれたので、感謝を言っておいた。




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