幼なじみと手紙!? もちろん行こう。


 うふふ、とチャロは生首を見下ろして、恍惚な表情をしている。常人の俺からしたら、生首にそんな顔はしない。チャロは変態だしな。


 血しぶきも止んだところで、チャロに近づく。


「よし、宿に戻るか」

「もう少し、ここに居たい」

「……人族が魔族を殺したことが誰かにバレたらおおごとになるぞ」


 返事が返ってきたこと驚く、陶酔状態には陥ってないみたいだ。チャロも俺の言っていることがわかったのか、宿に戻る俺のあとをしぶしぶと着いてきた。チャロは目に涙を貯め、グッと歯を食いしばっている。そこまで別れるのが嫌なのか。まぁ俺には理解できないが。


 ソフィアが俺の肩の上からお面をチャロに投げた。


「わる……」

「嫌だ!」


 ソフィアが起きているのにお姫様抱っこしたままで悪いなと思い、ソフィアに声をかけたが、俺の言葉を遮って嫌だと返してきた。悪い、下ろそうか? が言う前に拒絶された。


「私は愛している方から離れないといけないのに、目の前ではイチャイチャを見せれて、どんなプレイよ」


 後ろのチャロから文句と痛い視線が突き刺さる。俺の何処をみたらイチャイチャだって思うんだ? 今のチャロは恋愛脳だから、そう思うだけだと思う。






 宿に帰ると、さっきのドダバタのお陰ですっかり眠くなってしまった。部屋に入ると窓際の机に一枚の紙とコインが置いてある。そこには何も無かったはずだ。ソフィアも気になったのか、俺の手から降りて窓際に向かう。


「これはカジノの一番高い金のメダルだね。金貨を十枚でこのメダルになるよ」


 ソフィアは五枚ある分厚いメダルの一枚を持ち上げて、表と裏を確認し、カジノのメダルと言った。すごく高いらしい。メダルも机に置いて、紙を取り上げる。


「手紙で失礼します。お会いできなくて大変心苦しいですが、私はお会いするとお話にならないと思いまして。


 手紙書いて、名前を書くのを忘れていました。失敬、あまり手紙を書かないもので。手紙じゃなくてお会いする方が楽に物事も進む、貴方様も私と同じ考えじゃないですか? ……おっと、話が逸れましたね。

 お久しぶりですね。ガラン・ロスウェイトと申します」


 ガランの名前が出た時点で俺なら読むのやめているが、ソフィアは読み進めていく。


「この街にはカジノと呼ばれる物がございます。貴方様ならとっくに知っていると思いますが、もし知らなければグラスール様にでも聞けば知ることができると思います。

 貴方様には魔族の遊びを体験して欲しいと思いまして、メダルをご用意しました。限定商品も出るので楽しんでください」


 誰が遊びに行くかよ。もうそろそろで魔族の国だと思う、こんな街はすぐ出るにかぎる。


「どうする?」

「街を出る」


 ソフィアが全文読んだのか、俺に返答を求めるが、俺は即決断した。だよね〜、と手紙をうえしたに扇ぎながらソフィアは俺に同意する。



「ん?」


 ソフィアは読み終えた手紙を注意深く見る。何かに気づいたようなだ。

 

「まだ何か書いてある」


 俺も窓際に行くと、ソフィアは机に裏返して手紙を置き、手からポタポタと水を出す。すると手紙を濡らすどころか、水が自ら文字になっていく。ソフィアは水魔法も持っているのか、旅の途中で飲んだ水ってソフィア産?


「これは魔力のあるものなら、なんでも文字になる魔法紙だよ。ライヤのオーラだって文字になるけど、すごく高い紙だよ」


 ソフィアはギルドマスターだ。ソフィアがすごく高いってどれぐらいの金が掛かるんだろう。読むね、と言ってソフィアは口を開いた。



「そんなつまらない事はやめてくださいよ」


 俺たちの街を出ると言うのを、聞いていたかと思うような書き出しだ。


「行けばわかるのですけどね、限定商品はエリアーナ・アイム・アフィーリアという人物ですよ。貴方様の幼なじみ、女神の加護持ちですよね」


 シンッと静まって、周りの音が聞こえなくなった。すぐに深呼吸をして音を取り戻すように務める。


「なんでアフィーリア様がこの街にいるかはわかりませんが、明日は……いや、今日ですね。この日はジャックポットで一番高い人が商品を貰えます。スキルアップの巻物や、何でも綺麗に切れる剣、ドラゴンの卵。お金では買えない貴重な物が溢れるジャックポットの日にこの街を訪れるなんで、貴方様は運が良い。そう言えばこの街を出ていくんでしたね。残念ですけど、それを止める権利は私には無いので、魔族領の旅をどうかお楽しみください」


 そしてガランの手紙は終わった。


「どうする?」

「もちろん行こう」


 ソフィアは読み終わった後で、俺に聞いてくる。俺の答えを決まっていて、魔族領に来たのもエリアーナに会いにだ。観光に来たんじゃなく、罠かもしれないが、俺たちの目標を目の前でぶら下げられたら行くしかない。


 ガランの手紙はソフィアに頼んで、燃やしてもらった。

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