幼なじみの恋愛!? 愛を与えましょう。


 奴隷の街と言うが俺たちには関係ない。このラクレシの街は闘技場がメインの街だろう。見て回ることもないと宿で休んだ。朝一番にこの街を出たかったから。





 俺が二人部屋で寝ていたら、ガヤガヤと煩くて起き上がった。ずいぶんと寝た気がして窓の外を見れば、まだ夜だった。

 寝ているソフィアを俺から引き剥がして、ベットから下りる。寝起きでフラフラする足を引きずりながら窓へ行き、うるさい原因を探る。

 原因はすぐに見つかった。色々な魔族が輪になって、食事をしながらワイワイ騒いでいた。街灯の魔道具が沢山浮遊していて、夜の街は昼のように明るく、皆んな嬉しそうだった。

 闘技場が閉まれば、闘技場に行っていた連中が至るところで飲み会。これがこの街の日常か。


 さっぱり起きてしまった俺は暇つぶしに窓から街並みを覗くことにした。お面と椅子を取りに行き、窓のすぐ側に椅子を置き、座る。お面を着けて準備完了と窓から魔族の生態を覗く。

 コップを頭の角に乗せようと失敗したり、空き瓶を持った魔族が他の魔族の頭に空き瓶を叩きつけたり、「好きです」と大声で言った奴の方を見てみれば、ドロドロの人型の原型をとどめてない魔族が色んな種類の魔族から一心不乱に好きですコールを浴びせられたり、人族の飲み会と変わんねぇなと、一通り魔族の変な行動は見ていた。スライムボディの魔族が魔族の中では人気なのか。


 魔族を見るのは面白いと思い始めたところで、街灯がない路地裏に光が見えた。なんだなんだと注意深く路地裏に視線を飛ばす。何人もの魔族が顔を下げてうずくまっている。光があれば闇もある。カジノで負けた奴らだろう、明日から奴隷して働くのかな?

 路地裏を見てたらそのうずくまっていた魔族の一人が顔を上げて、俺の視線に気づいたのか俺に視線を飛ばしてくる。お面を着けているから大丈夫だろうと気にしてもいなかった。すると路地裏から一人、街灯の下に出てきて、俺を目掛けてトロトロとゆっくり歩いてくる。それが二人、四人と倍々で増えていく、路地裏にいったい何人いるんだ? と思ったが、最後まで見守ることはできない。だってゾンビは俺を目指して来ているから。


「ソフィア、チャロ起きろ! 魔族に狙われてる」


 なんでこっちに来るんだ? 寝起きの頭では限界だと諦めて、ソフィアとチャロを起こす。


「うぅん、なんだよライヤ」

「ライヤがまた何かしたでしょ」


 チャロは俺がソフィアを起こしてる時にはもうお面を着けて扉の前へ居た。ソフィアを抱えてお姫様抱っこをし、部屋から出る。


「えっ、ちょっ、え、え!?」


 ソフィアが寝起きで、何が何かわからなくなっているようだった。そのびっくりしているソフィアの可愛い顔に、チャロは部屋から持ってきていたお面を着ける。


 階段を降り、宿から出ると俺も狙っていた魔族が俺たちを見つけて走り出した。俺の水仙魔法でチャロの足にオーラを分け与え、全速力で街を駆ける。俺も水仙魔法を使っているというのに、全然差がつかない。さすが金が集まる街だ。良いスキルも持っているか。大事にはしたくなかったんだがな。しょうがない、殺すか……チャロが。


「やれ! チャロ!」

「私たちを追うなんて馬鹿なことをしなければ、こんなことには」


 俺とチャロが立ち止まり、魔族も立ち止まった。


「なんで俺たちを追うんだ?」

「そのお面を着けて宿に泊まってるのは人族しかいねぇんだよ。しかもお面を着けている人族は金を持ってる! 金を持っているんだぁぁぁあああ!」


 金が目的か、浅はかだな。チャロは俺にお面を投げ渡すと俺から離れるように歩き、一歩二歩で鞘から剣を引き抜く。お面は俺がお姫様抱っこをしているソフィアがキャッチした。


「私から背を向けた者には情けを与えましょう。相対している者には私からの」


 昔と口上が同じだ。こっちからはチャロの顔を見えないが、チャロは目をつぶっている。三秒の時が流れて目を開ける。


「愛を与えましょう」


 目の前のチャロを見失う。すげぇと思い、チャロを探していると気づいた、魔族の顔がないことに。


 バタバタと首から上が無くなった魔族が倒れていく中で、魔族の先にチャロがいた。白い制服は血も着いていない。手に持っているのは角が生えた人型の魔族の顔。チャロの周りには生首が綺麗に並べられている。そして顔にキスをした。


「愛したのに、すぐ死んじゃうんだもん」


 チャロはそのキスした顔を放り投げた。赤い血しぶきが時間を取り戻したようにドクドクと流れる、ドバドバと噴出している。可憐で綺麗な白い制服の彼女と、おぞましい赤と黒で塗りつぶされた背景のコントラストが絵を見ているみたいに不釣り合いで、それを創り出した彼女は赤色の雨を一滴もかかることなく、優雅に佇んでいた。


 チャロは殺し合いを愛している。

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