幼なじみと勝負!? 俺のせいです。



「何度でも言ってやるよ! ライヤは俺には勝てない!」


 アレックスが地面を引きずり終わって、俺の言葉に答えた。ザッと土煙が舞い、アレックスの姿が消えた。次の瞬間、目と鼻の先に現れたアレックスは勇者の剣を上段に構えて振り下ろした。

 俺も斜め下から聖剣振り上げて相対す、アレックスの後ろから。


 アレックスは俺の聖剣を受けて吹っ飛ばされると、一歩二歩三歩と地面に着く間に振り返り、四歩で地面を引きずって、俺を睨みながら止まった。俺は思う、アレックスが思うことは何故お前が後ろにいるのか、と。


「転移か……」


 俺が思ったことを難なく外し、アレックスが答えを言い当てる。そう転移だ。俺は自分のオーラがあるところに転移できる。

 アレックスの見えない斬撃と見えない移動は驚異的だが、それを切り替えて使っているようだ。同時に使えないなら移動してくる時に転移を使い、斬撃を使っている時に後ろから攻撃する。それだけでアレックスには勝てる。


「アレックス。俺が本気を出したらお前は死ぬぞ」

「俺は幼なじみたちにこんなに悲しいことをさせたくない」

「そうか」


 俺はさっきと同じ下段からの構えをする。アレックスが消えて、目の前へ。転移する時のオーラの揺らぎはもう覚えただろう、二回も見えてるんだからな。


 転移する。俺が今いる場所へ。


 オーラの揺らぎを見てアレックスは後ろへと振り返る。俺がそのまま下から上へ、オーラを纏わせながら最高火力で吹き飛ばす。

 一回転、三回転、六回転と地面を跳ねながら吹き飛ばされるアレックス。やっと回転が止まって、地面と長いキスをしていると思ったら、アレックスはゴホゴホと荒い息を吐いて、やっと起き上がった。ハァハァと肩で息をして、片足を上げた状態で俺を見つめるアレックス。


「俺が負けたら、俺が負けたら……」


 負けたらと言葉にしながら、アレックスは両足で立ち上がる。その目は惚れ惚れするように輝いていた。


「最後だ、聞いてやる。幼なじみに伝えたいことはあるか?」

「最後じゃねぇ。お前を殺して、俺も死ぬ」

「そう言う覚悟を持って、お前は俺に挑んでいるのか。失礼した。俺もお前に本気でいかないといけなかった。次で殺す」


 アレックスは正面で勇者の剣を構える。そしてアレックスが消えた。少し距離があって勇者の剣を地面に刺した状態で姿を現す。


「こんなもんかよ。じゃあ次は俺の番だ!」


 シュンシュンと転移を繰り返す、アレックスはキョロキョロ見渡している。オーラの揺らぎが炎のようにメラメラと沸き立つ。


「アレックス。お前と久しぶりに会えて良かった」





 アレックスは聞こえただろうか?


「もう終わったの?」

「草原に置いてきた」


 俺は船の上に転移した。ソフィアが俺がいるのに気づいて声をかけて、俺はアレックスを置いてきたと言った。

 船の上ということもあるだろうが、磯の匂いがする。海の匂いだ。草原でも涼しい風が肌を通っていたが、船の上の方が遥かに強風だなと思った。


「アレックスは昔っから人の言うこと聞かなくて、置いていかれることも多かったのに。全然変わってないね」

「幼なじみからの最後の言葉は『最後じゃねぇ。お前を殺して、俺も死ぬ』らしい。アレックスは曲がることを知らない、まっすぐな奴だよ」

「えっ!? ライヤはアレックスに仲直りしてないの?」


 俺はこくりと頷いた。ソフィアはビックリと目を開くと、ハァとため息を吐き、飽き飽きする表情に変わる。


「アレックスが話を聞かなくなったのもライヤのせいだからね。ライヤがアレックスの勝負を受けて、ちょっと経つと別のことをやってること多かったじゃん。だから勝負を受けたら何がなんでも話し聞かなくなってさ」

「俺のせいじゃないような気がする。アレックスと剣と剣の勝負で地面が柔らかいと本気が出せないと言うと……」

「畑を作って種を植えて、それから僕とルーシーを呼んで聖魔法で甘い野菜を成長させて皆んなで食べた? それとも虫に気を取られて集中出来ない、からの虫取り合戦? それとも……」

「はい、俺のせいです」


 ソフィアの言葉に俺は素直に認めた。アレックスはそれで話を聞かなくなったのか。でも待てよ、勝負を受けたのに勝った負けたは一切思い出せなかった。


「でも話を聞かなくても、アレックスとライヤの勝負は一回も、ちゃんと行われたことがないんだけどね」


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