幼なじみの笑顔!? 何度やっても同じだ。
俺が壁から立ち上がろうとした時にアレックスがまた視界から消えた。再度、姿を現したかと思えば手を出せば届く目と鼻の先だった。勇者の剣を上段に両手で構え、撃つ。
勇者の剣に俺のオーラが弾き返そうと勢い良く噴出する。だがその弾き返すことの期待は、ゆっくりとしたオーラを切り裂き進む勇者の剣で叶わないと知る。ピシャとオーラもどこかで諦めたのか、ゆっくりだった剣はいつの間にか俺のスネのところで止まっていた。俺は見えない斬撃によって死ぬんだろうか? パラッ、と後ろから建物が割れる音が聞こえてくる。
ドンッと衝撃が来て、地面が浮いた。斬撃の痛いという感覚は幸運なことにまだ襲ってこない。後ろからの衝撃、一二三回と建物の当たった衝撃だけで俺の意識は刈り取られた。
「ん……いってぇ」
口の中が砂が入ってジャリジャリとする。ペッペッと息を吐いて、うつ伏せになっている身体を後頭部を擦りながら立ち上がる。目を開けるとここは森の中のようだ。周囲を見渡すと、裂けた門の壁が見える。そして森と門の間の草原で誰かがたっているのが見えた。誰かは顔を見らずともわかるアレックスだ。森から草原へ出るために足を動かす。
俺の聖剣は左手に持っていた。よく気絶しても落とさなかったと自分を褒めたい。そしてまだ大問題が残ってる、アレックスをどう止めるかだ。この力を手に入れて、ここまで絶対絶命の状況はなかったな。斬撃や、移動が見えないというのが俺とアレックスの決定的な差だ。まぁ、まだまだあるのかも知れない、まだ俺は剣で打ち合うことを出来てないんだ。オーラを纏っている時は身体能力も上がっているのに、アレックスの剣を受けるだけでオーラの殆どを使用していた。だから俺は吹き飛ばされた時に後ろ側の衝撃だけで気絶したんだろう。
森から出た。草原が広がっている中、アレックスはまだ攻撃を仕掛けてこない。天気が良く、涼しい風を吹き抜ける。身体中が火照っているのか冷たい風が気持ちいいと感じる。ところで俺も攻撃しないと終わらないのはわかっている。アレックスをボコボコにしないと俺の話も聞いて貰えない。
聖剣を両の手で水平に構える。俺は全体魔法を選択する。左側から右側に水平に剣を振った。青のオーラがアレックスの首に伸びて行く。アレックスは片腕で勇者の剣を立てて、オーラが走る軌道に置いた。ガキンッ! とぶつかっても勇者の剣は微動だにしない。結界、俺の青いオーラが至るところに飛び散っただけだった。
俺の全体魔法をただ剣を立てるだけで無効化したのか。勇者の剣が魔神と相性が悪いのはわかった、オーラの力が抜ける感じが伝わってくる。謝ったら見逃してくれるかな。
「水仙魔法はそんなもんかよ、女神七人と勇者を殺したスキルは。ライヤが攻撃スキルを持ったら俺なんか敵わないと本気で思っていたが、相当に俺が上を行き過ぎたみてぇだな」
水仙魔法まで知っているのか? ウンディーネが女神七人と勇者を殺した?
そう考えた時にズキリと胸が痛んだ。痛いな、俺に向かった刃じゃないのに、神に繋がるというのも難儀なもんだな。ウンディーネは生まれた時から俺と幼なじみを見てて、何故が知らないが皿洗いスキルで俺を守っていた。子供の時から加護持ちと一緒にいた俺をスキルで操って、子供の加護持ちなら一瞬で殺せる場所にいて、殺しをしなかった。子供の俺なら憎しみの感情だけで簡単に操れただろう、加護持ちと勇者に対して俺は劣等感があったからな。
クラスアップも俺が成長するまで待ってたのかも知れない。いや違う、使わない方が良いと思って、最後までこの力の存在に気づかないで生涯をまっとうするように願っていた、それが俺の中で自然と納得のいく答えだった。
しかもアレックスは俺の上を行き過ぎてしまったらしい。そりゃそうだ、空を仰ぎみても姿一つ見えねぇよ。
俺はアレックスを正面に見ながら聖剣を水平に構える。そして左側から右側に剣の先からオーラが刃のように伸びて行く。
「何度やっても同じだ」
アレックスは勇者の剣を立てるだけ、俺はアレックスの後ろから全体魔法を放った。
勇者の剣を立てた反対側からの攻撃にアレックスは吹き飛ばされるが、すぐにオーラを勇者の剣で払い、振り向き俺を見た。
「おいおい、まだ始まったばっかりなのに随分と余裕なお言葉じゃないか。もう一度聞かせてくれないか?」
俺はアレックスを見ながら鼻で笑った。
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