幼なじみと旅行!? 水仙魔法ですか。
教会から出て、水仙魔法の転移を試すことにする。貴族街は下界と違い、まだ生活音すらしない。貴族たちは寝てるのかもしれない。
ソフィアの身体を離さないように引き付ける。下界には俺のオーラをもう既に置いてあるから行けるとおもう。目をつぶり集中すると、身体から白のオーラが湧き出す感じがして、フッと何かが変わったような気がする。
貴族街ではなかった雑多の音が耳にひりつく、貴族街より心地の良い風が頬を抜ける。目を開けると俺たちが急に現れたことで注目されていた。そう俺たちは下界の外に行ける最初の門の前に立っていた。
「凄いね! もう門にまで……貴族街の門じゃないよ。最初の門だ!」
ソフィアは転移したことに大変満足したらしい、凄いねと興奮しっぽなしだ。俺の溢れ出たオーラは転移が終わったら段々と勢いが無くなり、消えた。で、昨日ギルドにいた老人の執事がここにいるんだ? 俺とソフィアに向かって頭を下げていた。ソフィアに向かってだと思うけどな。
「ロウ爺、こんなとこで何しているの?」
「ふぉふぉ、魔族領に行くのでしょ。ならこれと……これを」
ソフィアがロウ爺と言われた老人に近づくと頭を上げ、ふぉふぉと笑うとソフィアに大袋を渡し、右手を横に顔の位置まで持ってきて、そこには何も無いはずなのにロウ爺は撫でる動作をする。俺は不思議に思って目を閉じ、開けるとそこには馬がいた。そして馬車があった。
ロウ爺はレアスキルを持っていて、その熟練度も凄く高いことが一連の動きの流れを見てもわかる。ソフィアはもうすでに馬車に乗っている、準備万端と言うわけか。
「水仙魔法ですか」
ロウ爺の声が近くから聞こえた。目を離している隙に、ロウ爺に距離を詰められた。
「加護持ちから力を貰うという貴方様には大変望ましい力ですね。ですが水仙魔法を持った昔の友人がおりまして、こう言葉を残しました。
『俺はなんのために力を持ったんだ』と、貴方様は加護持ちを殺した時にはどういう言葉を残すのでしょうか? ね」
「何を言っているんだ? 俺が加護持ちを殺す?」
「昔の話です、でも貴方様は昔の友人によく似ておられる。だから昔の友人の言葉を貴方様に託すのです。
なぜなら女神の加護持ちは水仙魔法には絶対に適わないんですから」
ソフィアが「ライヤ〜早く〜」と乗車を急かす声が聴こえてくる。ロウ爺の方を見ると消えていた。あのロウ爺は何を知っているんだ? 水仙魔法を持っていた奴も気になる、『俺はなんのために力を持ったんだ』か。俺のEX水仙魔法を見たと言うことは、あのロウ爺は8レベルの鑑定系のスキルか、国宝級の魔道具を持っているな。
俺が馬車に乗り込むと、ソフィアは馬を走らせる。ソフィアな聞いてみたロウ爺は何者なのか。
「ロウ爺は何者?」
「ロウ爺はグラスール家の執事だよ、僕に仕えてくれてるの」
「相当に強いよな」
「ロウ爺は強いよぉ。ライヤのスキルでも、スキルに慣れないうちはロウ爺に手も足も出ないね」
ソフィアが俺を甘く見積ることがある、だからこういう場合はスキルに慣れていても手も足も出ない、だ。本当に何者なんだ。
「前の前の前の前の前の前の、その前のグラスール家に執事としていたってお父様に聞いたことがあるよ。それが本当ならグラスールは勇者側について魔族領から人族が暮らせる場所を取り返したっていう昔話に出てくる……七人の女神? だっけ、に出てくるグラスール家の一番目の当主とロウ爺は会っていることになるんだよ」
馬車で門を潜り抜けると、「まぁ、お父様の嘘っぱちだよ」と、遠くを見つめた。昔話にグラスール家出てくんの? 俺の小さい頃は母さんの変な創作物しか聞かされてないんだけど。七人の女神は聞いたことがある。俺が知っている七人の女神は毎回毎回話が違う七人の女神だ。
七人の女神はスキルを使って、スキルと名前は母さんのアレンジポイントだった。でも一人一人と女神が死んでいく中でラストシーンは最後の女神と勇者が残るんだ。勇者の剣を二人で持ち、地面に刺して、魔族が入って来れない結界を張るとパッピーエンド、だった気がする。
「昔話のグラスールって最後生き残った奴か?」
「勇者も女神七人も死ぬんだよ? 生き残ったって誰が? グラスール家は三人目の女神だよ。女神と言っても加護持ちだと思うけど、昔話は女神が降りて来たと書かれてた。う〜ん、まさか僕は女神? だったり」
「そんなわけねぇだろ」と言うと「だよねぇ〜」と返ってきた。最後の女神と勇者も死ぬのか。母さんはラストシーンまで手を加えるとは思わなかった。じゃあ当主は死んでるじゃんと思うが、昔話は昔話だ。昔話にする時に脚色しているのかもしれない。
「昔話のグラスールが死んで、家系が続くのか?」
「えっ、昔話は昔話だよ。勇者も全員死んでるのに誰が伝えるのさ。と、川だ!」
誰が伝えるの? は納得した。川だとソフィアの指の先を見る。もうこんな遠くへ来たのかと修学旅行を思い出す。門の外に出るのは人生で三回ある。一回目は修学旅行、二回目はソフィアとの馬車の旅、三回目は十三歳の時。十三歳の時はすぐに帰ってきたが。
そう言えば修学旅行先に勇者の剣が刺さっていたところがあったはず、引き抜こうとして怒られた。本当の勇者なら抜けんじゃないかとアリエルに頼んだが抜けなかった。いや、少し動いたんじゃなかったかな。
「な〜にニヤニヤしてるの?」
「アリエルと勇者の剣との修学旅行思い出に浸ってるんだよ」
「あぁ、勇者の剣のところで二人が怒られていたのは覚えてるよ」
学園にいる時はアリエルと一緒に怒られることが多かった。
「アリエルと可哀想だったね。もうほとんどライヤのせいで怒られていたようなもんだよ」
俺はソフィアに言葉を触れずに、綺麗な川を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます