幼なじみの怒り!? 悪いな。





「名乗られたら名乗るのが礼儀と古風な幼なじみから言われててな。俺の名前はライヤだ」


 人情の礼儀にうるさかった刀を持つ武士? カオル・サクラギ。サムライとかいう職業になりたいと夢を語ってくれた幼なじみを思い出して、俺は名前を伝えた。貴族だったらソフィアという加護持ちといて、俺の名前を知らないとは言わないだろう。

 どうしてかな、幼なじみのことを考えてしまう。三人の幼なじみに会っちまうと止めていた記憶が崩壊するように昔を懐かしいと思い出す、また幼なじみと会ってみたくなっちまう。


「凄い、あの鍍金の勇者ライヤか!? 本物の勇者のみが使うというクラスアップの儀をあの場で女神と執り行ったと。鍍金の勇者、そう言えば貴族は貴方におそれていたのです。加護持ちからの絶対的な信頼を持っていて、貴方と国が対立しても加護持ちは貴方につくと有名でした。でも何故でしょう? 貴方は加護持ちを裏切って逃げた。まぁ、その結果貴方は二十歳まで生きてこられたんですけど、貴方はクラスアップで強くなった。加護持ちから離れた貴方は無価値だったからこそ、国から貴族から目をつけられなかった。強くなった貴方と加護持ちが全員貴方の傍につくことをこの国では許されないでしょう」


 成人までは幼なじみのリーダーのようなこともしていた。成人してスキルも貰えなく、鍍金の勇者と呼ばれ始めた辺りで、幼なじみの優しさが痛かった。卒業して両親が蒸発してたのが効いたな。で、逃げた。逃げたんだ。このガランが言っていることは真実で、幼なじみもちゃんと理解して俺と関わらないようにしてくれていたんだ。俺の勝手な気持ちだけで会ったら、幼なじみの気持ちまで踏みにじることになる……。


「ねぇ、さっきから聞いてれば、僕たちがライヤと会うのがダメならこんな国いらないんだけど」

「ほら、加護持ちのグラスールさんも貴方の思考になっちゃいましたよ。わたくしは貴方を救おうとしているのです。加護持ちも救われますよ」


 俺とガランの会話にソフィアが入ってくる。俺は横目で後ろのソフィアを見ると、ソフィアが俺を片手で押すと俺とひっくり返るように前に出た。

 そして歩くことをやめないソフィアはついにガランの目の前に来ると腰を落として拳を振りかぶる。「おりゃ〜」と声がした瞬間にソフィアは勢い良くジャンプしてガランを殴った。


「リーパーに殺されそうになってたアイラを助けたのは国か? お前か? 間違えなくライヤなんだよ。昔からライヤは僕たちを助けてくれたんだ! お前は知らない、ライヤの凄さを!」


 着地して、尻もちをついたガランに怒号を撒き散らしたソフィア。ソフィアは、ふぅと息を吸い、ゆっくり口を開いた。


「昨日の件を知っている、ライヤに会いに来た、それだけで裏切り者と分かる。でも証拠がないから僕はこれだけで許してるんだからね。本当は今すぐにでも殺してやりたいのに……でももうライヤがいる、ライヤがいるからこそ幼なじみ全員がまた力を貸してくれる。次に加護持ちを相手取るのはその小さな脳から出た作戦じゃ時間の無駄かもね。個人でも強力な幼なじみ加護持ちに何かあったら幼なじみ僕たちが許さない。次は神でも呼んでこないと相手にならないかもね」


 ソフィアはガランに向けて上から目線で冷たく言い放つ。



「今回は上手くいって調子に乗ってもいいんじゃないですか。グラスールさんが言うように神に呼んでくることにします。私は帰りますよ。いや、もう神は……」


 ガランは尻もちをついた地面から立ち上がるとお尻を叩きながら言葉を添える。帰ると言ったガランは目を閉じて、開ける間に服がない骸骨になり、バラバラと崩れた。辺りを見渡してみると俺たちを不審がる人はいない。俺たちだけを結界に閉じ込めていたみたいだ、アイツが結界の犯人。ソフィアを見てみると右手を庇って泣いていた。


「カッコつけるからだぞ」

「だってライヤは怒らないでしょ」


 そうか、ソフィアは俺のために怒ってくれてるのか。


「ライヤの分も僕が怒るの」

「悪いな」


 ソフィアは泣くのをやめて、エッヘンと胸を張った。



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