幼なじみを守る!? 準備できてる。




 女神の無能っぷりに辟易しながら現実に意識を向け目を開けると、アイラがリーパーと戦っている。大鎌がアイラの首を落とす為の軌道を描く、アイラは一瞬屈んで大鎌の軌道から外れ、一歩前へ。そこからのリーパーの胸に水平に振られた光りを帯びた剣が、リーパーの左腕の骨でガードされる。するとアイラは追撃はせずに一、二歩退いて聖剣を構えた。

 アイラはこのリーパーを倒せるまでの体力は残ってないのだろう。大鎌と聖剣の弾き合う音を聴きながら、目を閉じる。


『……しよう! どうしよう! このまま加護保持者が死んだら、人族と魔族の均衡が崩れちゃう。私が女神の権限を失ったら違う女神がこの世界の管轄になって、スキルを与えなかったことが天上界に知られる。しまいには天界から降ろされるかも』


 女神と交信を繋ぎ直せば、女神の独り言が聞こえてきた。段々弱々しくなっていく声。天界にも上下関係とか横のつながりもあるのか。

 俺は目を閉じているが目の前に、瞼の裏に長方形の光る板が現れる。そこには頭を抱えたスタイルも良い、顔も良いが、白金のボサボサの髪に、上下ともに白のラインが入った赤のジャージを着て、丸眼鏡をかけた女神さま? がいた。しかも生活感のある普通に清潔感がある部屋と言う感じだ。ビンクと白のシャボン玉が散りばめられたような壁紙に、勉強机と床には水色の絨毯がある、床で過ごすには丁度いい水色のテーブル。そのテーブルの周りにはマットが赤、黄、青、緑と並べられて、そこにシンプルな水色のベットが置いてある。


「おいポンコツ女神、頭抱えて何してんの?」

「え、なんでこっちから繋いでないのに!? しかも私が見えるの?」

「? 机の上に積まれた、男子生徒と教育実習生の男子大学生のラブロマンス! 男男舞踏ダンダンダンスは見えるな」


 勉強机に積まれた本の名前を言うと、女神様の顔が段々と赤くなる。そして女神と俺を繋ぐ画面にノイズが入った。その瞬間に何も無い白い部屋に変わって、赤のジャージから白のワンピースを着替えている。一瞬で良くここまで出来たなと感心しながら、櫛で髪を整えている女神には少し残念な気持ちもある。コイツがもっと有能ならなと思わずにはいられない。


「よし、俺が見えてるだろ? これで幼なじみも助けるスキルくれよ」

「試してみたけど無理ね。私がやれるスキルレベルの上限がとうに過ぎてるみたい」


 スキルレベルは剣術3、水魔法4のスキルを持ってたらトータルスキルレベルは7になる。その場合、簡単に言うと8がスキル付与の上限とするなら1既存のスキルが上がった時にスキル付与が出来なくなって、上がる前なら一つのスキルを付けれるということ。

 ふむふむと考えれば考えるほど無理じゃね? 皿洗い1083あるんだぞ。


「鍍金の勇者に剣をやることがそんなに難しいことかよ、なぁ女神様よ」

「残念ですが……。女神の加護を持つ二人と一緒にいるのでしょう。事態は急を要します、私が天上界に報告して判断を仰ぎます」

「もういいわ、報告してたら三人とも死んじまう。俺が直接上位の女神に繋ぐ」

「無理ですよ、え!? 本気ですか!? ちょっとま……」


 プツンとポンコツ女神との交信を切った。もうそろそろいいかなと自分のステータスを思い浮かべる。


【ライヤ】


スキル】 皿洗い1083 EX経験値増量 EX女神の加護23


 そして目の前にある光の板がビリビリと音を鳴らす、ビリビリと周波数を合わせると光の板の画面なビョンとついた。そこに映るのは先程交信を切った女神と似ている、だがだいぶ大人に見える女神がいた。



「先程の女神は私の娘です」


 前の女神と違うのは丸眼鏡をかけていないし、最初から白い部屋で、正装なのか白いワンピースを着ている。ポンコツ女神の母だと言う母女神。


「最低限の生きる術を与えよと言いましたのに、二つのスキルしかない、しかも皿洗いスキルとEX経験値増加ですか。で、借り物の女神の加護と。面白いですね、そんな状態で私に交信できたのも奇跡ですし、神を通さずに私に交信出来た最初の人族は貴方です。最高神の私に貴方は豪運な縁とスキルで何を臨む」

「俺が何を臨むか? 俺に幼なじみを助ける力をくれ」


 母女神は面白いと笑う。人族では俺が最初なのかと思いながらも俺が女神に言うことは変わらない。


「ごめんなさい、最高神の私でも貴方にはスキルを与えることは出来ません。それほど貴方の皿洗いスキルのレベルは高いのです。……今、報告が来ました、そこに二人の女神の加護持ちがいると?」

「……そうだ、コイツらを助けたい」


 母女神は残念がるように眉尻を下げる。するとドタドタと階段を上がるような音が聞こえてきて、ガチャリと扉が開くような音が聞こえる。母女神が画面から離れ、戻ってきた時には白い紙を持って来て、報告は来ましたと告げる。まさか家? そんなことはどうでもいいんだと、首を振り、再度母女神に頼む、力を貸してほしいと。加護持ちの幼なじみを救うことは、俺と女神の気持ちは一致している。


「女神に対して強大な効果を持つ結界の中にいるみたいですね。しょうがないですね、加護持ちが死ぬことはその世界の崩壊を意味する。私にはもう貴方に頼ることしか出来ないです。豪運な貴方と選択肢を選ぶことの出来ない私が繋がった奇跡に感謝をしましょう。スキルを追加じゃなく、皿洗いスキルのレベルを使って上位のスキルにします」


 母女神は急に真剣な表情になると目を閉じ、数秒で開く。やっとヤル気になってくれたのか。両手を頭上に上げ、うぅ〜んと、伸びをする。そして母女神は俺に両手を向ける。これは聞かなければいけないと口を開く。


「それ皿洗いスキルが全然役に立たなかった時は、どうするんだ?」

「まぁ、それでも使えるスキルじゃないなら諦めましょう。そこにいる人たちは全員死にます。簡単でしょ? 違う選択肢があれば絶対こんなことはしないんですよ。じゃ、貴方には加護持ちを守る騎士になって貰います」


 母女神と俺とを繋ぐ画面がノイズに支配されていく。女神の加護が無くなる前兆。でも何か俺の中で減ったり、増えたり、不思議な感覚がある。全身が熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。立ってられないとフラっと力が抜ける瞬間があったが不思議と立ってられた。





 ハァハァと息を整える。女神の加護が完全に消えたことにより、少しは楽になったと現実に意識を浮上させれば、ソフィアが俺を一生懸命に支えてくれていた。


『これで貴方は力を持った、神秘の力を』

「あぁ、騎士になってお姫様を守る? そんなの小さな時から準備できてる」




【ライヤ】


スキル】 EX水仙魔法SSS1 EX経験値増量 






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