幼なじみの抱擁!? 皿洗いスキルのレベルが2上がった。
階段を上がり終えると聖騎士が迎えてくれる。貴族街の門までは聖騎士が守っていて、貴族街から外は衛兵が守っている。聖騎士が下界を歩いている事は一切ない。でもアイラは昨日歩いていたな。聖騎士団が動くほどの不審者がいるということじゃないか。王の間での出来事が濃厚すぎて、今朝の一件を忘れてしまっていた。
今朝は惨劇中寝ていて何で助かったんだろう。まさか魔族か? 人族は成人になるまでにスキルを得るでき、スキルを使うことによってレベルが上がるが、魔族は違う。魔族はスキルを持つ者を殺してスキルを獲得する、そして同じスキルを持つ者を殺してスキルが上がる。
俺は皿洗いスキルしか持っていないと思われて助かったのか? エクストラスキルは鑑定スキル8以上、または鑑定系の国宝級の魔道具でしか見れないと聞いたことがある。まぁ、魔族にはEX経験値増加はいらないと無視されたか。人族界でも用無し、魔族界でも用無し。俺は自分の空想でも心にダメージを受けるのか、人間の国に魔族が入り込んでいるなんて……
「ラグレイシア様からの任務は以上になります」
「ありがとうございました」
聖騎士の人の言葉で現実に戻される。聖騎士は左手を胸に持っていき、頭を下げていた。聖騎士の敬礼だ。ルーシーの知り合いとして送ってもらったんだろうと思うが、何だか申し訳ない気になる。感謝を伝え、扉を潜った。
扉が閉まる音が聞こえ、横目で後ろを見てみると壁が空まで届いてると感じるほどのデカい門だなと思った。聖騎士が使う転移陣はこの門の地下にあったんだなと感慨深い気持ちになる。沢山あった夢、その一つががこんな形で叶うとは昔の俺は思ってないだろうな。
今朝からそんなに時間は経ってないように思うが、空にはオレンジ色が覆い尽くしている、朝昼の雰囲気じゃない。今朝の一件からテントは片付けられていると思うし、俺は仕事場の猫寝亭によってから今後のことを決めようかな。遅刻という時間でもないし、門から猫寝亭まで何時間かかるか分からない、閉まってなければいいな。
「おーす、ライヤ。僕聞いたよ、聞いちゃったよ! ルーシーとアイラに会ったんだって! ズルい僕も!」
俺が走ろうとした時に前から抱き着かれ、尻餅をついた。尻が痛いと言う間もなく、抱き着いた奴からは矢継ぎ早しに言葉を投げかけられた。よく見てみるとショートカットのサラサラの白い髪に、端正な顔だが、ぷっくりとしたほっぺと活発な印象を持つ目。青の短パンと黒の無防備なシャツを着ている人物は見覚えがある。俺の幼なじみでどう見ても二十歳に見えない小柄な体躯。
【ソフィア・グラスール】
スキル】EXスキルチェンジ EXスキルチェイン EX女神の加護
「ソフィア・グラスール」
「何でフルネーム? 昔みたいにソフィアちゃんって言ってくれてもいいんだよ。ところでさ、ライヤにはもう会えないって皆んなが言うから我慢してたのに、アイラとルーシーは抜け駆けしたんだよ許せないよね」
ソフィアをちゃんずけで呼んだことはない。身体ごと俺の身体にしがみついているソフィアを気にせずに立ち上がる。控え目な胸が当たる感触がする。昔から少しは成長したなと思い「はぁ」と、ため息を吐く。女の子なんだから恥じらいをもてと……違う! コイツは成人で二十歳だ。危ない危ない、コイツが幼なじみと言うことに戦慄する日が来ようとは思わなかった。
「で、俺に用事があったんだろう?」
「ん? 無いよ、何にも。僕はライヤに着いていく」
猫寝亭に行きたい俺はソフィアが引っ付いたまま歩き出した。そうか、コイツはそう言う奴だ。たしか卒業した後、ギルドに入ると言ってたな。ソフィアは冒険が好きで遺跡がダンジョンを攻略したいと言っていた気がするが今はどうしているのだろう。
「ギルドに入ったんだろ。最近はどうだ」
「ギルドのこと? 今はマスターだよ」
「マスターってリーダーみたいなのか?」
「そうだね。この国もこの国以外のギルドと名のあるとこのリーダーだよ」
え、それって、ギルドのトップで一番偉いと言うことなのでは。ソフィアはぷくぷく頬っぺを膨らましながら「マスターになったら暇になったよ」と不機嫌そうに言った。マスターに依頼するのは俺には考えられないほどの金が入りそうだ。
「ライヤの最近の状況は?」
「俺の最近の状況は皿洗いスキルのレベルが2上がった」
猫寝亭につけば怒られるのは明白で、ソフィアとのたわいも無い会話が救いだったことは否めない。数時間かけて門から歩いて来たが、空を見れば星たちが自分が一番光ってると言うように競い合っている。
「へぇ、猫寝亭と言う所で仕事してるんだね」
「そうだ。まぁ、皿洗いなんだけどな。この大通りを左手に曲がれば猫寝亭の看板が見え……」
大通りを曲がった瞬間、ドロリとした粘着質な空気が感じた。大通りを曲がる前までは心地よい雑多の音があり、雑多があるからこその暖かさを感じた。曲がってからの通りはシーンと静まり返り、常時ナニカに見られてるような独特の緊張を感じて身体が固まって動けなくなる。辺りを見れば死体がゴロゴロと、でももうそこに何十年もあったかのようにどの死体も白骨化していて、飛び散った血も赤じゃなく、黒く染まっていた。
「あぁ、結界に入っちゃったね。なんでだろう? 人族の国でこんな大規模な結界をやったら、人でも魔族でも戦争になるだけなのに。しかもなんで警報が鳴ってないの? 皆んなを混乱させない為? ここに来るまでに衛兵や聖騎士団が動いた形跡がなかった。貴族街の外の事はお構い無しということ? いや、人族側に裏切り者がいるかもね」
動けない俺の代わりに真面目に口を動かしたソフィアは俺の身体からやっと引っ付くのをやめ、自分の両足で立つとソフィアは目を瞑る。そしてスキルチェンジと呟く、するとソフィアの身体から光が溢れ、幻かどうなのか俺には祈るルーシーの姿がソフィアと重なって見えた。
たしかEXスキルのスキルチェンジは1レベルに付き一つ、勝手に他人のスキルが使えると言うものだった。他人のスキルだからかスキルはレベル1で固定されて、一定時間は自分のスキルが使えなくなるオマケ付きだが。
目を開けたソフィアが口を開く。
「解呪の魔法はキスするだけだっけ?」
「いや、聖魔法だろ。ソフィアとルーシーは女神の加護があるから身体のどこでも触って祈るだけだ。お願いってな」
「それはわかってるけどつまんない!」
ソフィアが目をつぶって俺の肩を触ると肩から全身に電気が走った。すると俺の身体から光が溢れて、ソフィアは目を開けるとその光は消えた。
解呪の魔法が効き、固まっていた身体が動く。手をグーと握り、パーと緩める。その繰り返しで問題ないこと確認。
シーンと静まり返ったこの場所で、俺の耳にキンッキンッと鉄が打ち合うような音が聴こえた気がした。
「誰かが戦ってる」
ソフィアも聴こえたらしい。
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