幼なじみの思惑!? 迷惑じゃないよ。




 ルーシーの優しい微笑むを受け、可愛い惚けて意識が遠くに行きそうになるが首を振って意識を保つ。ルーシーが左手の人差し指を指揮者のように一振すると、俺の両手と両足の枷が冷たくなっていく。段々と冷たくなっていくのにルーシーは変わらず優しく微笑んでる。俺の冷たさの感覚が壊れたらしい、冷たくなっているのに火に手を突っ込んでいるかのように熱くなる。

 ルーシーは人差し指と親指を擦り合わせて、パチンと指を鳴らす。パキッパキッと両手両足の方から音がなり、無理に固めた姿勢から開放された。枷が外れて自由になった俺は立ち上がり、精一杯手を頭上に上げて伸びをする。そして伸びが終わると服従のポーズ。血だらけだった服も王の前だからか、前来てた服よりも上等になっていた。リレルが仕立ててくれたのかなとリレルを見ると剣を鞘にしまって服従のポーズに戻っていた。


 俺が服従のポーズを取るのは聖騎士団の下っ端の不敬罪という事で刑も無しになりそうなのに、王に不敬罪を働いたら流石のルーシーだってもう助けてはくれないだろう。ルーシーは俺が自由になった事を見送ったら王に向かい頭を軽く下げる。聖職者は服従のポーズはしない。

 老人が小声で王と話している。王よ、その威厳ある声で俺の悪口しか聞いていない、頼むから自分の声で喋れよ。まぁ、これは心の中で思うことにして不敬罪にはなりたくない。


 老人と王が話して、服従のポーズの姿勢も変えたくなるほどの時間が経った。チラリとリレルを見てみると目をつぶっている。すげぇ、この状態のまま寝れるんだと、そんなわけない事を妄想して暇を潰す。

 やっと老人と王の二人だけの時間が終わったのか、老人がこちらを向くと息を吐き、俺にも聞こえる程の吸い込む音。


「許す!!!」


 その二文字は王の間を突き抜けて、街に広がってるんじゃないかという程の大声だった。王から俺は許された。『許す』言うためだけのための時間だったの? 男の子二人が好きな女の子に言いに行く過程の話じゃないんだよ。時間かかり過ぎだろ。


「賢明な判断ですね。神の使いたる私が王に祝福の才があらんことを祈ります」


 ルーシーは剣を鞘ごと引き抜くと、剣の柄を頭に当てる。祈るように目を瞑ると、すぐさま剣を頭から離し、鞘を腰に掛けた。すると王と起点にポツポツと拳ぐらいの光の粒子が現れ、王の体に入っていく。王は祝福を受けたことがあるのか、動揺していない。


 ふぅ、と可愛らしい吐息が聞こえ、ルーシーを見ると祈りが済んだのか目を開けていた。俺に身体を向けたルーシーは「退室しなさい」と王の前で俺に命令する。「わかりました」と了承すると服従のポーズを解除して王を見ないように後ろを振り向く。


「ライヤ、お前は大きくなりすぎた。違うか、世代に感謝か? いや、お前の世代は最善であり、最愛であり、最悪だ。ここで死ぬ方がお前の為だっだと知れ」


 俺の世代が最悪、最高の間違えだろ。王の間を出て、一つ思い出し、王に向かって一つの質問をする。扉が閉まろうとするそんな時だった。


「エリアーナは元気か?」

『お前ガッ! 状況を! 知ってなんに! なるんだぁぁぁあああ!!!』


 扉が閉まっても怒声とガンガンと椅子を叩いているだろう音が聞こえてくる。耳を立てるのは「処刑をしろ」と聞こえた辺りでやめておいた。




 王の間があったという事は、ここは王城なのだろう。歩いても歩いても城から出られない。この国は城から門を挟んで貴族街あり、貴族街から門を挟んでそれ以外が暮らしている街がある。中心に行くほどに偉い人が住んでると言うことだ。

 俺が捕まったところは外側中の外側だ。王城から半日はかかりそうな距離にある。それは聖騎士が使う転移陣があるということは知っているから、それはいい。俺が気になるのは王が刑を決める場にいたんだ、下界の住人の俺がだぞ。王に裁いて貰うほどの名誉あることはやってない。王の考えも大司教なら分かるかとルーシーに聞いてみた。


「なんで王の間に来てまで裁かれようとしていたのか、俺にはわからない。どうしてだと思う?」


 城の廊下を俺とルーシーの二人は肩を並べて歩きながらルーシーは少し考える素振りを見せた。そして口を開いた。


「卒業後に全員でライヤ君に会いに行ったんですけど、家は売りに出されていて、探そうにも私たちには力がなくて。力がある人に頼んでも無駄でした。でもエイリーナさんは凄く心配してましたから、王もライヤ君の顔を見たくなったんじゃないですか。もちろん幼なじみの全員ライヤ君を心配していましたよ」


 探してくれていたのか。名門校を卒業して成人になりましたと言っても、子供に毛が生えたぐらいのもので、力がある奴の方が俺に近ずきたくないだろう。しかも王様よ、顔がみたいだけで処刑されたら命がいくつあっても足らない。


「私も肩書きばかり大きくなって、ライヤ君を探そうと思えば探せたのですが。私は……いや、幼なじみ全員が私と同じ考えでしょう。ライヤ君の迷惑にしかならないと」


 俺は口をパクパクとさせて『迷惑じゃないよ』と、軽い言葉すら、音すら出ない。そしたらと笑顔を作って『迷惑じゃないよ』と必死でアピールする。


 立ち止まったルーシーに釣られて立ち止まる。


「なんですか? そのぎこちない笑顔は。でもやっと肩書きでライヤ君の助けになれました」

「……ッ!」


 ふわっとルーシーが俺の身体を抱き締める。ルーシーの目にキラッと輝いた雫が見えた気がした。俺は黙ってルーシーの気持ちが落ち着くまでは我慢できなかった。『ありがとう』と、ちゃんとした気持ちのこもった言葉が口から出やがった。「うん、うん」と、俺の肩を濡らし泣くルーシーのお陰かちょっとだけ昔に戻ったような気がした。






 大司教を泣かせたとあっては、次は神に裁かれそうだ。ルーシーに、幼なじみに対する取っ掛りが消えた俺は下界の転移陣で送られるまで猫寝亭で皿洗いとして働いている事や、俺は普段何処に出没しているかを話した。ルーシーは祈る事しかやってないらしい、それ以外は些細なことだと。ルーシーのお祈りの効果も聞いた。王にやったのはリフォールと言うスキルで、ルーシーが持っているスキルなら一定時間一つだけ与えることが出来るスキルみたいだ。ルーシーが良く使うのは聖なる護りを付与する効果があるものらしい。


 城の地下の階段を進んだ先に魔法陣があって、魔法陣を囲むように黒フードを頭から被った十人もの人がいた。その一人の転移人にルーシーが行きたい場所を言うと驚かれたが心良く承諾してもらう。転移する時は転移陣から出ないでくださいと言われ、王の間ぐらいある馬鹿でかい魔法陣からどうやって出るんだと思ったが。魔法陣から出た状態で魔法陣を起動すると出た所はさよならする事態になるとこ怖い話を聞かされた。転移人の鉄板ネタだろうと思うが、早く転移して欲しい。でも少し転移陣の中側に行こうかな。


 転移陣から転移人が出た瞬間、シュンと転移陣から音がして、ルーシーが話しかけた転移人は座っていた。「着きましたよ」と、ルーシーが言った。これが転移か! 不思議な感覚に高揚する。転移陣から出るとルーシーにお礼しようと向きなおる。


「送ってくれてありがとう。あっ、幼なじみと言えば昨日アイラにもあったが、飯に誘って断られた」

「アイラさんはそんなことはしないですよ。ライヤ君もわかっているでしょ、あの子は昔のままです。私が王城に来たのはアイラのお願いなんですよ。聖騎士団に報告が行く頃にはライヤ君の刑は王の間で執り行うのが決まってしまっていたのです。聖騎士団が捕まえた罪人を副団長という間柄で取り消す事は余計な軋轢を生む。すぐに王城に来れる人で、すぐに問題を解決する人は決まってます。アイラさんは私に情報を漏らし、私が適任だと思ったみたいです」


 優しく言葉を選んでルーシーは俺に伝えた。俺はアイラにもお礼を言わないといけないな。転移人にルーシーが「戻してください」というとシュンと転移陣が音鳴らし、ルーシーが消えた。

 可愛い顔が見れなくなったのを残念に思い、俺は後ろに振り向き、階段を上がった。





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