幼なじみと笑顔の再開!? 久しぶりですね。
朝日が顔を出す前に起きるのは仕事する者として当然だ。布団かどうかも怪しいペラッペラの布を引き剥がし、腰が痛いと起き上がる。目を閉じたままタオルを肩にかけてテントを出ると、チュンチュンとうるさい鳥の声が鬱陶し……清々しい気持ちになる。あともうちょっと近かったら焼鳥にするところだ。
フラフラと目と鼻の先にある井戸まで歩く。この道はもう何往復も行ったり来たり、目を閉じても把握出来ている。把握出来ていると言っても本気で目を閉じ歩く奴は俺のような馬鹿だけだ。イタッ! と道にある何かを蹴飛ばし、それが何かを確認しないまま井戸に着いた。
手の感覚だけでバケツを見つけると井戸に向かって投げ入れる。バケツからボチャンと返事が返ってきたのを聞いて。
「い〜ち、に〜、さ!」
三つ数えてから、バケツに括り付けられた紐を引っ張る。ギーゴー、ギーゴーと滑車のBGMを聞き流しながら、子供の時は投げ入れるのを注意する奴があまりにも周りに多かったなとそんな昔話を思い出す。
「ステータスか……」
EX経験値増量は俺が生まれ持ってのスキルだった。エクストラスキルは神が下さったお力なんだと、なんだよそれ!
平民だった俺はこのスキルのお陰で貴族が入れるという名門校に入った。スキルは親から遺伝することが多いからか貴族は様々な強力なスキルを持っている。
俺は両親ともに剣術のスキルを持っていて、俺の剣術は固有スキルとして、もう確定してた。それからだ、未来の勇者だと持て囃され出したのは。十二歳を迎える頃には鍍金の勇者として広く認知される。小さい頃から英才教育を受けて来た俺はたまにしか両親に会えなかったけど、会う度に喜んでくれる両親の姿を覚えている。そんな両親は十三歳の名門校の卒業式が終わり、家に帰ると蒸発していた。
はぁはぁと思い出す度に息が荒くなっていく。これも久しぶりに幼なじみなんかとあったからだろう。
「クソッ!」
短い大きな声を出して心を切り替える。滑車に擦り寄ったバケツを引き剥がすと、そのまま地面に起く、タオルを水に潜らせて顔と脇を洗う。さっぱりしたなとバケツを抱えて水を飲む。水が鉄臭い、あぁ鳥でも死んだかと納得してバケツを頭上に持ち上げてからひっくり返す。勢い良く髪が濡れ、服も濡れるがすぐに乾くだろうとバケツを井戸のふちに置く。
ビショ濡れになった黒い髪をタオルを絞って雑に拭いた。毎朝のルーティーンも終わり、やっと俺も起きた感じがして目を開ける。ん? 二、三度をパチリ、パチリと目を開ける。どこを見ても赤だ。目が可笑しくなったかと思ったがそうじゃないらしい。
この場所はテントが至る所に設置してあり、衛兵も認知はしているが黙認してる最底辺の居住スペースだったりする。俺のテントだけ被害がなく、それ以外は壊されていた。それにしても周りを見渡せば目を見張るのは数々の死体。大人や子供、女だろうが男だろうが関係無しだ。刃物で切り裂かれた人も、焦げ臭い真っ黒な人もいる。それだけ見ても剣と魔法で殺されているのが分かる。
「おい! 何をしている!」
俺に言われたのか声がした方に顔を向けると、コイツ昨日会ったな。リレルが井戸の前でポカーンと立っている血だらけの俺に剣を抜き近付いて来た。無風だった風が聖騎士にビックリしたのか動き出す。風に乗って酸っぱい肉の焼けた匂いと、生臭く人間臭い匂いのコントラストを風は運んでくれる。俺は腹から一気に口に吹き出した物をゴクンと我慢して喉の奥に保留する。昨日の夜、酒飲んでたら終わってた。
リレルが十分に近付き、俺の喉に剣を置くと再度聞いてきた。「何をしている」と、保留中の俺はもう少し待ってと思ったが、ギリギリの状態で声を出す。
「オ、レハ、ナニモ、ヤッテナイ」
「まぁ、そうだろな。剣術も、魔法もないお前がここまでの事をやったという方が無理だ。貴族なら誰が見てもお前の仕業じゃないと言うだろう。鍍金の勇者君」
「ジャア……」
「でも血だらけの状態で何もやってないは通らない」
リレルは俺を馬鹿にして鼻で笑うと、俺の喉から剣を離し、鞘にしまった。
「このアフィーリア王国でここまでの惨劇を作り出した人物を捕まえねばならん。着いてこい、逃げたいなら好きにしろ。その瞬間平民が一人死ぬだけ……」
「オロロロロロ……」
リレルが何か喋っていたようだが、保留中の砲台が誤射した。綺麗だった白い鎧を茶色で汚す。胸から腰にかけて茶色のドロリとした粘土のような物が良いアクセントになっている。俺は口から広がる酸っぱい匂いとダイレクトに鼻に来る酸っぱい匂いで第二波を放とうとしたが、あいにく弾はもう無かった。
「おい、死ぬ準備は出来ているか?」
「もちろん、出来てないですよ」
リレルの顔は白い鎧を見たまま固まっていて、一切俺を見てなかった。リレルの言った言葉を真面目に返し、ストンと俺は意識が途絶えた。
「……きよ」
ん? 誰かに呼ばれて目を開ける。すると俺は仰向けの状態で寝かされて、両手、両足が何かに縛られたように動かない。横を見ればリレルが片膝をつけ、頭を下げていた。これは見たことがある、というか俺もやった事がある。服従のポーズだと子供時代は言っていた。そして聖騎士がこれをやるのは聖騎士より位が高い存在がいる時。
「起きよ、ライヤ。勇者のなりそこないよ」
頭を上げるとそこにはアフィーリアの王。厳つく、そしてモッサリ白髪のジル・アイム・アフィーリア。俺はその名を一生忘れることはないだろう。俺を勇者に祭り上げたのはこの王がいたからだ。
二十年前のこの国に女神からの神託が降りた。『産まれた時に三つのスキルを持つ者を大事に育てなさい』と、すぐに平民までのスキル鑑定が行われた。そして見つけたのがエクストラスキルを持つこの俺だ。愚王が神託をそのまま信じてれば俺の人生が百八十度変わることもなかった。
「アブノー報告を」
「ハッ!」
腰が折れていない執事風の老人が王の横に控えている。老人が王の前に出るとリレルに服従のポーズ解除の命令を出す。リレルも血だらけの俺を見つけて、ゲロをお見舞されたことまで包み隠さずに報告した。リレルは服従のポーズに戻る時に眉間に皺を寄せながら俺を睨んだ。
「聖騎士に無礼な行いをしたライヤは不敬罪として、公開で処刑してやってもいいが、王は寛大だ! 王の目の前で処刑は執り行われる」
老人がしわがれた大声で言った刑。結局死ぬんかい! と思ったのは俺だけじゃないだろう。まぁ、俺が名門校に入って何も成果を出さなかった。愚王の顔に泥を塗った事には違いない。そして聖騎士に不敬罪と重なったらサクッと殺して汚点抹消。さっそくリレルが服従のポーズを解き、剣を抜く。
「待ちなさい! 彼を殺すのは私が許しませんよ」
おっとりとした声からなるハッキリした口調。カツカツと後ろからの足音が俺を通り過ぎた。
黒のワンビースを基調に、腰に胴にと銀の軽鎧が光る。腰に剣を携えて、優しい目元からは考えられない程の意思がある目を持ち、肩まで伸びる銀髪と端正な顔立ちは綺麗という他に無い。揺れる胸は彼女が歩けばどんな饒舌な男も黙るだろう破壊力を持っている。
「大司教ルーシー・ラグレイシア! 王の間に何用ですかな?」
「先程も言いましたように、私の言葉は神からの言葉です。二度聞くことを禁じます」
老人が質問をした答えは、もうすで言ってあるとルーシーはピシャリと言い放つ。
へぇ、ルーシーは卒業後、教会に入ったと聞いていたが、俺の幼なじみが大司教。
「ライヤ君、久しぶりですね」
ルーシーは俺に向かって優しく微笑んだ。
【ルーシー・ラグレイシア】
スキル】EX聖魔法 EX神秘の加護 EX女神の加護
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