幼なじみが軒並み出世していく中、俺の最近の状況は皿洗いスキルのレベルが2上がりました。

くらげさん

幼なじみと再開!? 飯でも行かないか?




『ボクのしょうらいのゆめは、きしになって、おひめさまをまもることです!』


 こんな夢を語った幼少の学び舎の俺が、今の俺を見たら失神するんじゃないかと思う。今の俺は皿洗いをして日銭を稼ぐ、毎日毎日代わり映えのしない日常を謳歌している。大人四人がギリギリ入るかなと思う洗い場が俺の仕事場だ。


 無骨で長身なスキンヘッドの男が俺の背後から現れ、汚い大量の皿を流しに入れると乾いたキレイな皿を無造作に持ち上げた。その持ち上げた皿は大量で崩れそうに見えるが不思議と崩れない。


「チッ! は、や、く洗えよ! 皿洗いもまともに出来ないのか! この無能が」

「ウス」


 店長のマルコスさんは忙しい時は少し怒りっぽくなり、口も悪くなる。俺が無能なのは知っているが、マルコスさんはそんな俺にも仕事を用意してくれる。

 

 聞いた話だとマルコスさんは剣術のスキルも持ってるらしいが、一つ一つ酔った時に聞かせてくれたスキルを思い出していく。


【マルコス】

スキル】 料理4 殴術7 剣術4

    水魔法2 言語翻訳1


 俺が思い出せるマルコスさんのスキルは六個だ、あと最低でも四個マルコスさんは才能を持っている。十二歳の成人を迎えると最低でも十のスキルが神から与えられると言うが、まったく俺の神は仕事してんのか。

 スキルは1でやり方がわかり、5で上級者、10でMAXになり、そのスキルを極めた者になるらしい。11に挑戦した人がいたらしいが、人間には寿命があるからその頂きにはいかないとそう言われている。


 まぁ、俺のスキルは皿洗いスキルしか持ってないんだけど。


【ライヤ】

スキル】 皿洗い1083 EX経験値増量


 俺のスキルは数値もバクってるらしい。もう一つのスキルのせいではあるんだけど、そのスキルは考えるだけでも嫌だ。


「チッ!」


 洗い場の用事は終わったのかマルコスさんは舌打ちすると調理場へ戻っていった。調理場は客から見える様になっているからか、洗い場と調理場は違うところにある。


 皿洗いマスターの力を見せる時が来た。皿など撫でるだけで新品と同様になる。魚の油、豚の油、焦げ付き、さっと指で撫でるだけであら不思議! 綺麗に汚れが消えた。

 皿はすぐ終わり、コップを布と水でゴシゴシと洗う。皿洗いマスターは皿以外には使えない。





 日が差し込まなくなった。

 ふぅ、やっと終わったぜ。と仕事を止めて、狭い洗い場から広い調理場に行くとマルコスさんは嫌でも分かる。他の料理人は二人、新しく入った人達だろう、直ぐに辞めるから名前を覚える必要もない。

 視線をカウンターの向こうにやれば、眩しいぐらいの明かりと、何を話しているのか知らないが調理の音に負けないように大きな声で喋る客たち。


「マルコスさん、マルコスさん。もう帰ります」

「あぁ? あぁ、いつものとこだ」


 夜の部に向けて料理を作っているマルコスさんに頭を下げる。客から見えないように腰を落として調理場をさっさと通り過ぎた。


 洗い場二つ分ぐらいの大きさの部屋に入ると、一人一人の服を入れられる木で出来た長方形の箱があり、鍵なしの扉が付いている。その木で出き……ロッカーを開けると、紙袋と大銀貨一枚、銅貨三枚が置かれていた。紙袋はマルコスさんが毎日仕事終わりに持たせてくれる晩御飯だろうことは分かる。大銀貨?

 そうか、給料日かと考えるのをやめ、ロッカーの中央から水平に突き出た棒にエプロンを掛ける。マルコスさんは恐い顔しているが、自分の下で働いている俺たちに良くしてくれる。給料日も騎士とかお偉いさんの仕事でしか聞かない。


 金をポケットに入れ、紙袋を持ってロッカーを閉める。この部屋の二つある扉は一つ調理場へ、一つは店の裏に繋がる出入口になっている。鍵を開け、外に出る。辺りもすっかり暗くなった。俺は指輪をはめて、ドアを触れるとガチャリと音がした。開くことは出来ないけど閉めることは出来る指輪型の魔道具でシッカリ防犯対策して、指輪を外す。


 左を見ると焼却炉があり、煙が出ているという事はゴミを焼いているところだろう。右に足を向け、道なりに進むと大通りに出た。冷たい風に吹かれて、さっさと帰ろうと足を早めた。





 遠目から去年聖騎士になった一人の女性が歩いて来ている。俺は足を止める。女は白の軽鎧を優雅に着こなし、歩く度に綺麗な青みがかった紫の髪がなびく。透き通る白い肌、キリリとした目、ピンク色の唇。顔も良いし、スタイルも良い、まさに戦いの女神と言った相貌の女だ。


 俺は顔を合わせないように下を向き、通り過ぎるのを待つ。女の自信満々に風を切って歩く姿を想像して、俺はギリリと歯を食いしばった。遠くで鳴る足音、一音一音がやたらと重く感じた。

 足が見える頃になると、やっとかと思いながら視線は綺麗な脚線美に夢中だ。


「おい、お前。顔を上げろ」


 可愛らしく、そして張りのある声にビクリと肩を揺らし、ゴクリと喉を鳴らしながら顔を上げる。


「やぁ、お前聖騎士になったんだよな。お前が見る見る出世していくのは幼なじみとして鼻が高いけど。あぁそうか、お祝いがまだだったな! 給料が入ったんだ、一緒に飯でも行かないか?」


 俺は矢継ぎ早しに言葉を言い放ち、幼なじみの女も見れないほど視線を泳がしている。ポケットから銀貨と銅貨を見せつけて飯屋に誘った。


「不審者がいると通報を受けて来たら……」

「ち、違うッ! 俺はさっき仕事が終わったとこなんだ」

「仕事? ライヤが? その銀貨も」


 不審者は違うと女の言葉を遮り、無実だと進言する。俺が仕事をしているのが不思議らしい、幼なじみだから俺のスキルも当然のことで知っている。その女が銀貨を見て、首を振った。


「そうか、悪かったな」

「飯は、どうする?」


 ちゃんと目を合わせる事が出来た、昔みたいに。ゆっくり女が口を開くと、パシンと銀貨を持った手を弾かれた。えっ、と声に出すと銀貨と銅貨がバラバラと地面に落ちる。


「聖騎士団副団長、アイラ・フォーミュラ様に向かって、平民風情がなんたる無礼! このリレル・アブノーが黙ってませんよ」


 大声で注目を集めたのは俺とアイラの間に強引に入って来たリレル・アブノーと言う人物。俺の銀貨を持った手を払った人物。金髪で坊ちゃん刈り、そして言葉の端々から感じる貴族臭が鼻につく。俺はそんな事より、聖騎士になったばっかりなのに、もう副団長に上がってるのかと現実逃避気味に考えていた。

 リレルの視線は地面を見る。俺もその視線が気になって視線をリレルと一緒に下げる。リレルの視線の先には銀色に鈍く光る銀貨が落ちていた。

 動けない俺をよそに銀貨を取りに行くリレル。


「はぁ〜、こんなはした金で副団長が満足する御飯が提供できると、笑わせないでください」


 リレルは腰を落として銀貨を手に入れると、俺に見えるようにパッ、パッ、パッ、と銀貨を三回ジャンプさせ、グッと拳に力を込めたかと思ったら腕を大きく振りかぶって銀貨を投げた。





「さっ! 副団長行きましょ」


 アイラとリレルの後ろ姿を見送る。自信満々に風を切って歩く、その通る道は何も遮るものがないかのように。そりゃそうだろう、こんな俺とは最初から才能が違う。俺の幼馴染は生まれた時から三つのスキルを持っている。


【アイラ・フォーミュラ】

スキル】EX聖剣術 EX聖剣召喚 EX女神の加護


 副団長と言ってもアイラは綺麗だから色んな奴に声をかけらる。だからなのか見せしめのような見世物が必要なんだろう。それに協力することが幼なじみからのお祝いということにしといてやろう。



 銅貨を三枚拾うと。


「寒いな」


 俺は銀貨を探すことはしなかった。


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