第21話 カギを持つ者


「私のママがそのカギを持っていたって、どうして知っているの?」


 ことはは恐る恐る尋ねた。

 娘であることはでも、母である優子が死書官であることすら知らなかったのに、その上そんな特殊なカギを持っていたなんてなぜ奏が知っているのか。

 とても信じられない話だった。


「それは簡単な話だよ。ぼくはね、死書官の死書を読んだんだ。そして見てきた、最後にあのカギを使った死書官が誰なのかを……死書官補佐だから、もしかしてまだ死書の中へ行ったことはないかな?」

「う……ううん、入ったことならあるわ。2回……」

「2回も? へぇ……君は優秀なんだね」


 奏はことはの前に椅子を奥と、ことはと向き合って座った。


「それなら、君も知っているだろうけど、あれは過去の記録。死書の主人公が場所を変えてしまえば、そこから動かないそれ以外の人たちが主人公が離れた後何をしていたかの記録は記されていない」


 ことはは、あの陽太くんの母親の死書の中で見たものを思い出した。

 主人公が立ち去った公園は、いつの間にかそこにいた人間が消えて、場所も消えてしまう。


「優子はね、違法死書が増えている理由は、死書官の持っているカギのせいなのかもしれないと言っていたんだ」


 奏の話によると、3年前に違法死書の調査に出た優子は違法死書が生まれる共通点に気がついたのだという。

 それを共に調査していた死書官たちに話していた。


「違法死書は全て、死書官殺害の現場の目撃者だったんだよ」

「殺害現場の……目撃者!?」


 ことはの脳裏に、昨日、違法死書の中で見た光景がよぎる。

 犯人は死書2冊と、他にも何かを殺した死書官から奪っていた。

 その何かは、死書官が持っていたカギだったのだ。


「そして更に、おかしなことを言っていたんだ。自分が持っているカギが、犯人の探している時の彼方へ行けるあのカギかもしれないと……」


 ことはにそこまで話したところで、カギの鑑定結果が出たと、ことはの体を椅子に拘束した黒いスーツの男が来た。


「ずいぶん時間がかかったようだけど……やっぱり、本物だった?」


 奏は期待に満ちた表情で、ニコニコと笑う。

 今度は心から本当に嬉しそうな笑顔だった。


ぬし様、それが……————」



 鑑定の結果を聞いた奏の嬉しそうな笑顔は、一瞬で別のものに変わる。




 ◇ ◇ ◇




 いつまで経っても死神図書館にことはが現れず、新しい死書官補佐を待っていた優介は、これ以上待っても仕方がないと図書館を後にした。

 優介が使っている入り口のドアは、警視庁の地下にある秘密通路につながっている。


 駐車場に停めてある車に乗り、エンジンをかけたその時だった。

 優介のスマホに連絡が入ったのは。


「どうした……時也、何かあったか?」

伯父おじさん、ことはが……ことはが行方不明なんだ!!』

「コトちゃんが!? 一体何があった!?」

『それが……学校も途中で帰ってたみたいで……友達が別人で……』

「……時也、一旦落ち着け。順番に話せ」



 優介は車から降りて、時也の話を聞きながら来た道を戻った。

 シャツの胸ポケットから、カギを取り出してドアを開けると長い通路を走る。


「————わかった。コトちゃんの居場所は俺が探す。とりあえずことはが行きそうな所の住所をメールで送ってくれ。俺も行ってみるから」


 そう言って、通話を切ると、今度はスマホの写真アプリを起動し、1枚の画像を表示する。


「……どうした優介? 忘れ物か?」


 戻ってきた優介を見て、小首を傾げるトトに向かい、その画像を見せた。


「トト様! あなたが雇った死書官補佐は、この……で間違いないですか!?」



 上級死書官、神威優介は時也とことはの伯父。

 そして、花咲優子——旧姓・神威優子の実の兄である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る