第9話 死書官のお仕事
死書官の仕事は大まかにわけると主に2種類ある。
死ぬことが決定している人間の側に立ち、死書を回収し図書館へ送る——俗に死神と呼ばれるものと、全国各地から送られてくる死書の管理を行う図書館の仕事である。
トトがことはに教えた仕事は、バラバラに箱に入っている新しい死書と警察の捜査などに使われたあと返却された死書の仕分け。
たまにこの中に違法死書が混ざっていることがあり、その場合、死書に押されている担当死書官のスタンプが押されていないらしい。
「もしも違法死書だったら、“不明”の箱に入れてね」
トトは適当に1番上に積まれていた死書をとり、中を開くと回収した死書官の名前と日付が書かれたスタンプが押されているのをことはに見せた後、“新書”と書かれた箱に入れる。
死書官のスタンプの下に、借りた人物の名前と日時を書く場所があり、そこは白紙だった。
「1度でも貸し出したものは、ここに借りていった人物の名前と日付が書かれているわ。まぁ、ほとんどが新書だけど……これもあるから、よく注意してね」
「はーい!」
(なんだ、結構簡単な仕事じゃない)
死書官補佐だなんて、立派な名前の仕事だからもっと難しいことなのかと思って少し緊張していたが、これなら簡単にできるとことはは思った。
ただ、量が尋常じゃないが…………
とにかく、ことはの仕事は、この積まれている大量の死書を、“新刊” “返却” “不明”と書かれた3つの箱に仕分けするというもの。
「……ところで、この仕事をすれば、ママに会えるの? 3つの箱に分けるだけなのに、どうやって?」
「あぁ……それは————」
トトは死書の中に3年前の記述があるものを探すといいと言った。
「いなくなったのが3年前なのだから、あなたのママを目撃した記述がある死書が必ずあるはずよ。近所に住んでいた人や、知り合いの死書があったら、それを見つけて、辿っていけばいいわ」
「3年前の記述?」
「ええ、この目次ページから探せば簡単よ。年齢別に分かれているから」
死書の1ページ目には、名前とこれまでの住所などの情報が書かれている。
死書は全国各地から届いているから、さすがに全ての3年前の記述を読んでいては時間がかかりすぎる。
そもそも、今仕分けするために積み上げた死書の中にあるとは限らない。
トトはことはがそのことに気づかないうちに、仕事をさせようとしていた。
「なるほど……! やってみる!!」
「頼んだわよ。あと、もしもあなたのママの記述を見つけたらすぐに教えてね。死書の中へ……連れていってあげるわ」
一瞬ニヤリと笑い、トトはことはから離れて、別の仕事をするために受付の椅子に戻った。
すぐに呼ばれることはないだろうし、そもそも、そんな確率的に低いことがそうそう起こるはずがないと、鼻歌を歌いながら。
(死書の中……って、一体なんだろう? でもまぁ、見つければいいのよね! 頑張ろう!!)
ことはは、トトのそんな思惑なんて知らずに、1冊目の死書を手に取った。
表紙には名前と生年月日が書かれている。
トトに教えられた通り、死書官のスタンプが押されている最後のページを開いてみると、昨日の日付と一緒に死書官のスタンプが押されていた。
しかし、残念ながら、3年前のこの人物は海外に住んでいるため、ことはの母の記述があるはずがない。
(まぁ、そんなにすぐ見つかるものでもない……よね?)
新書の箱に入れて、次の死書を開く。
「あ……これ……この住所!!」
(この人————3年前まで、家の近くに住んでた!!)
驚異的な運で、ことはは2冊目で母の記述がありそうな本を見つけてしまった。
そして、目次から3年前のページを開き、少し読んでみると…………
『————花咲優子と会い、口論になる』
という記述があった。
「と……トトさん!!! トトさん!!!」
ことはは大きな声でトトを呼んだ。
「なによ、そんなに大声で……静かにしなさい————」
「だって、だって!! ママを……ママの名前を見つけたのよ!!!」
「え?」
ことははその記述を指差して、トトに見せる。
「ほら見て! ここ!! 花咲優子って書いてある!!」
あまりに信じられなくて、トトは手に持っていた別の死書をバサリと床に落としてしまった。
「あなた……もしかして、運がいい方?」
「え? どうだろう? わからないけど今年のおみくじは大吉だったよ? って、今はそんなこと関係ないでしょ? どうしたらいいの?」
「どうしたら……って?」
「連れていってくれるんでしょ? 死書の中ってやつに!!」
まさかこんなに早くそれが実現するとは予想していなかったトトは、顔を引きつらせながら、ことはからその死書を受け取り、言った。
「いいわ……連れていってあげる。ただし……絶対に、ワタシのいうことを聞くのよ? 下手をしたら、戻ってこれなくなるかもしれないし……なにより、過去を変えることになるかもしれないからね」
「え?」
トトはテーブルの上に死書を置き、開いたページの上に四角形を指で描くと、そこからあの紫の光が発生して、あたり一面を覆う。
(何!? 何が起きてるの!?)
眩しくて目を閉じたことはの手を取り、トトがまたなにか呪文のような、日本語でも英語でもない言葉を呟いた。
あたり一面が真っ白になる。
そして、次にことはが目を開けた時、見たものは————
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