第3話 死神図書館へつづく道
「死神……図書館?」
白紙だった便せんに浮かび上がる文字。
さらに、地図も浮かび上がってくる。
「これって……ママの働いてた中学校の近くだ」
それは、ことはが来年入学する中学校の近く。
ことはの母が司書として働いていた中学校の図書館の近くだった。
地図が示す場所には、どこかで見た絵のような、文字のようなものが書かれている。
「あ!!」
ことははポケットの中に入れたままのカギにも、同じようなものが刻まれていたことに気がつく。
そして、ポケットの中からそのカギを取り出すと、カギに刻まれている文字らしきものも、この手紙と同じく光っていた。
「これだ! きっと、ここに行けば!!」
ことはは、この光る手紙とカギをポケットに押し込むと、足の痛みも忘れて家を飛び出した。
◇ ◇ ◇
時刻は夜10時をとっくに過ぎていて、小学生がひとりで出歩いていい時間帯では決してない。
目的の場所は、学区内の中学校の裏手であるためそこまで家から離れていないが、所々にある街灯がぼんやりと照らしているだけの暗い夜の道。
日中とは違う姿を見せる夜の住宅街はとても静かで、いつもの公園も、通学路の坂道もなんだか全く別のものに見える。
坂道を下り、T路地を右に進めば小学校、左に進めば中学校がある。
通い慣れた右ではなく、ほとんど歩いたことのない左に進み、ことはは息を切らしながら懸命に地図に示された道を歩いた。
「ここだ……」
3年間、どこにいるのかも、何の連絡もなかった母からの突然の手紙。
やっと会えるかもしれないという期待に胸が膨らむ。
地図に書かれた場所あったのは、小さな一軒家のどこにでもある普通の家だった。
表札に名前はなくて、その代わり、“売り家”と書かれた看板が立てられている。
呼び鈴が見当たらず、入り口のドアをノックをしてみたが、空き家のためもちろん中からは応答もない。
もちろんカギがかかっている。
ことはは、ポケットに押し込んでいたカギを取り出して、そのドアのカギ穴に挿し込んだ。
ピンクというより紫に近い光をぼんやりと放っていたカギの明かりが、少し強くなる。
————ガチャッ
「あ、開いた!!」
ドアノブを回せば、重い木製のドアが、キィィと嫌な音を立てながら開く。
緊張しながら中を覗くと、奥が暗くて見えないが長い廊下が続いているようだった。
妙なことに、普通の家ならあるはずの玄関はないようで、ことははスニーカーのままその暗くて長い廊下をカギが放つ光を頼りに進む。
(この先に、ママがいる————)
そう、信じて。
◇ ◇ ◇
一方、玄関のドアが開く音がして、2階の自分の部屋にいた時也は窓から外を見下ろした。
松葉杖も持たずに、安静にしていなきゃならないからと、1階で寝ているはずの妹が家を出て行ったのが見えた。
「あいつ……こんな時間に、何を!?」
階段を駆け下りて、時也は急いでことはの後を追った。
その時ちょうど風呂に入っていた父は、子供たちがこんな時間に家を出て行ったことに気づいていない。
歩いている道が小学校への通学路だったため、誰か友達に呼ばれたのかと思ったが、坂道を下ったことはが曲がったのは、左。
小学校とは反対側の道を進むことはの後を、時也は少し離れた距離から見守っていた。
(何をしてるんだ……?)
中学校へ行くのかと思えば、その裏側の空き家の前に止まって、何かをしている。
その時ちょうど、ジーンズの後ろのポケットに入れていたスマホが鳴り、父からだったが焦った時也はすぐに着信を拒否してしまった。
(はぁ……びっくりした!)
二人ともいないことを心配しての電話だったのだが、思わず切ってしまって、こちらから掛け直そうかと画面を見たそのほんの少しの間で、売り家の前にいた妹は、ドアを開けて中へ。
「あ……?」
時也も中へ入ろうとドアノブをひねるが、玄関にはことはも、ことはのスニーカーもない。
「ことは……?」
暗い空き家の中を、スマホのライトで照らしながら探したが、ことはの姿はどこにもなかった。
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