第4話 黒き聖獣の物語



 ある嵐の夜。

 一つの家に迷い込んだ一匹の黒き獣。

 漆黒の牙に、漆黒の体毛。

 そのものはただの動物ではなく、魔物であった。


 誰が予想できただろう。

 雷に打たれ震えるその子犬の様な獣が、世界を恐怖で震え上がらせ、人々を襲い続けている魔物だなどと。

 後に朝の騎士となる少年に見つけられ、その小さな腕に抱きあげられた動物が、嬉しげにその頬をなめる子犬が、邪悪の化身であろうなど誰が想像できただろう。


 それからの月日。

 黒き獣は少年の傍にいつでも寄り添い、共に日々を過ごして成長した。


 けれども、魔物と人との仲は認められず、良き日々は長く続かない。

 数年と経たぬ内に、黒き獣と少年の絆は、周囲にいた者達によって当然の様に引き裂かれてしまう。


 黒き獣は夢を抱いていた。

 大人になって騎士となった少年のその傍に立つという……決して叶わぬ夢を。


 成長するにしたがい、黒き獣の心の内では、人々への敵意と憎悪が膨れ上がる。

 そしてその内に、抑えきれぬ感情の奔流に従い、求めるがままに暴力を振るうようになってしまったのだった。


 騎士の隣で振るわれる事を夢見た牙で、幾百もの人々の命が儚く散っていき、幾千もの犠牲が出た。


 けれどそんな獣の前に、成長した少年が立ちはだかる事となる。

 その隣には、白き聖獣を従えて。


 叶わぬ願いを抱きながら少年の手にかかった獣は、自らの牙を砕いて聖獣に差し出した。

 魔物の力のこもったそれを、自分の代わりに傍に置いて欲しいと。


 少年は涙ながらにその牙に誓った。


 永遠に傍に。


 すると白かった聖獣の体は、見る見るうちに夜よりも濃く黒く変化していった。

 白き聖獣は黒き聖獣になり、その隣には少年だった朝の騎士が並ぶ。


 それはまるで、黒き獣がいつか抱いた夢の光景そのものの様だった。


 そうして、魔物の力を受け取った黒き聖獣は、その力を振るい長く少年の傍に寄り添い続けたのだった。



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レムリア・ワールドの童話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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