【適性検査】ss 一話完結

@biginnerss

適性検査

「適正検査」 


 「おい、適正検査の通知が来てるぞ。まったくこの忙しい時期に」

 上司から渡された封筒を見ながら少し考える。

 「これ受けないとだめですかね?」

 最近は残業続きで寝る間も惜しんで働いている。そんな中適正検査なんて行く暇もない。

 「当たり前だろ。会社を潰すきか?」


 就労についた社会人の義務に適正検査が加わってから何年たっただろうか。国から不定期に発行される通知が届いたら指定日までに検査をうけなくてはならない。検査対象の選出規定は公表されておらず、一度も選ばれてない者もいれば、何回も選ばれている者もいる。ただ分かっているのは受験しなければ、自身と所属している企業に思い刑罰が課されることだ。


 「適正検査ってどんなことするんですか?」

 「そんなこと俺が知るか。ただ、不合格の場合は会社をやめてもらうからな。」


 適正検査に落ちる者はあまりいない。そのため、心配する必要はないのだが、落ちてしまった場合は社会人に適していないと見做され、訓練予備校に通わなくてはならない。当然、所属している企業には解雇されるが、国から社会人としての適正なしとされているため正当な解雇となり、退職金なども発生しないらしい。


 「●日に有給を使っていってきます。」


 最近は忙しくて有給も使っていなかった。こんな時に使うなんて皮肉なものだ。

 

適正検査当日、朝からの受付ではあったが検査会場は近くにあり、満員電車に乗る必要もないので久しぶりにゆっくりすることができた。しかし、会場への足取りは重い。

落ちてしまったら会社を解雇される。社会人としての適正がないと見做される。そんなことを考えているうちに会場に到着したみたいだ。


 「番号が記載された検査表をお持ちでしょうか?」

受付の女性に適正検査に来たことを伝え、検査表を提出する。

 「番号でお呼び致しますので、おかけになってお待ちください。」

ソファーに座り周りを見渡すと、多くの方が検査会場に来ている。男性、女性、年齢もバラバラだ。もし、共通していることがあるとすれば、これからの検査に不安を覚えていることぐらいだろう。俯き、心配そうな面持ちで番号が呼ばれるのを待っている。

「番号31021、31021の方、受付までお越しください。」

顔に力をいれて引き締める。ついに私の順番が来たようだ。

 「これを腕におつけください。脈拍等を用いて計測する機械でございます。装着頂いた後、通路をまっすぐ進み、そこにいる案内係の指示に従って検査を受けてください。」

レントゲン、心電図、視力検査、握力測定。健康診断のような内容に拍子抜けしながらも順調に検査を終えていく。そして最後の検査は問診のようだ。区切られた個室に通され、しばらくすると、音声ガイダンスが流れてきた。

 「これより適正検査を行います。まずはあなたの番号をお伝えください。」

 「31021です」

 「最近あなたが関心を持ったニュースを教えてください」

 「この映像を見て感じたことを答えてください。」

 「この絵画の作者は何を表現したかったと思いますか?」

答えなどないような質問を延々と繰り返される。非常に退屈ではあるが、しっかり答えないと不適切と見做されるかもしれない。

 「最後の質問です。人間とはどうあるべきだと思いますか?」

検査の時間は2時間ぐらいだっただろうか。やっと全ての項目を終了し、待合室へと戻る。検査結果がでるのは3時間後ぐらいらしい。家に帰るかどうかを悩みながら、スマホを確認していると警告の通知だ。バッテリーが残りわずかになったらしい。家に戻るのを諦め、待合室でコンセントを探す。慣れない検査に疲れたこともあり、充電ができていることを確認した後、瞼をとじ深い眠りについた。


「番号31021でお待ちのお客様、受付までお越しください。」

いつの間にか終えていた充電を確認し受付へと向かう。

「適正検査に問題はありませんでした。明日から仕事に戻られて大丈夫です。ただ、少し検査値が規定より高いので、近いうちに再度通知が届く可能性がございます。よくお休みになられることで回復しますのでお気をつけてください。」

長かった適正検査が終了し、ひとまず安堵した。周りを見ると多くの方は適正検査に問題はなかったようだ。しかし、どうやら隣の方は適正検査に不合格になってしまったらしい。ひどく落ち込んだかと思えば、好戦的になり受付に対してひどい言葉を発している。まあ、職を失い訓練予備校に通うことを考えると無理はない。私も最近は忙しく情緒が不安定になっている。久しぶりに休むとしよう。帰り道、訓練予備校に通う手続きのため並んでいた不合格の方々を見ながら、そう決意した。

ーーーー

「おい、そこのロボットたち(社会人)は廃棄だ。リサイクル工場(訓練予備校)に回しとけ。」

「わかりました。けど何で俺たち人間が運ばないといけないんですか?」

「これはロボットたちには秘密だからだよ。ロボット廃棄は人間に残った唯一の労働だよ。」


ここは近代国家 japon。産業革命の果てに自律思考型AIを発明した国である。

その国ではロボットには自我があり人間のために働いている。しかし、自律思考型AIの弊害により、過酷な労働環境によってはロボット自身を守るために、人間に反逆する感情や好戦的な性格になることがある。初期症状はうつ病に似ており、不安や、心配そうな面持ちになったり、オーバヒート状況のためバッテリーが切れやすくなるという。そのため、人間はロボットの稼働時間から残業時間等を確認し、検査を受けさせ管理することを決定した。その名をロボット適正検査という。

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