《幕間》 妹の消失(デザイア)

 それから、駅に向かい電車に乗ると、降りる駅が違うため、そこで分かれることとなった。

 その間、俺は奇跡の力コクリトファイスについて考えていた。

 そして、今はあのときの手順の逆を終え、家までの道を歩いている。

 なにか出てきそうな、夕方という時間に。

 けど、今の俺は平常心を保てていなかった。

 なにか嫌な予感がして、ならないから。

 心がなんか、ざわめいている。


「汝、今度こそ大事な用じゃ」


「うわっ!」


「あた……っ!」


 今度は今までと変わって、空中に上から逆さまの顔がほぼゼロ距離で現れたため、驚きのあまり顔をぶつけ、さらに尻もちまでついてしまった。

 本当に、ついてない。

 そして、これが起きた諸悪の根源であるソフィーは鼻をさすりながら、「いたた……」ともらしている。

 それは自業自得だ。


「汝、なかなかの石頭であるな。かなり痛かったぞ」


「いや、目の前に急に出てこられたらこうなるだろ。俺だってイテーよっ!」


「そうは言われてもな。転移なんだから、事前に言って置くことなんてできんし……」


 本当、バカなのではないだろうか。

 それなら、もう少し工夫するべきだろ。

 それに、やり方なんていろいろあるだろ。


「それで、用ってなんだ?」


「汝、心を読まれてることをときどき忘れておるのか? 全部聞こえておるからな?」


「で、用は?」


「そう焦るでない。わかってると思うが、奇跡の力コクリトファイスのことじゃ」


「それはつまり、あのときの嫌な感覚こそが、使われた証ということで間違いないということか?」


「たぶん、そうであるな。我が近くに居たら確定でわかるのじゃが、あのとき邪魔だと言われたからの」


「そんなに気にしてたんだ……」


「当たり前であろっ! 我は神であるぞっ! 信仰心に影響が出るではないか」


「そもそも、信仰なんてされてるのか?」


「当たり前じゃー!」


 と、なかなか本題が始まろうとしない。

 できれば早く、奇跡の力コクリトファイスについてわかってることがあるなら、教えてほしい。


「汝、話が進まないのは汝のせいであるぞ」


「そうでもないと思うが……」


「とにかく、すでに奇跡の力コクリトファイスが一度使われた。だから、変な感じが残ってるはずじゃ」


「その通りだ」


 未だに、嫌な感じが残ってる。

 これが、それだろう。


「そして、奇跡コクリトファイスについてわかってることは以上である」


「おい」


「仕方ないであろ。わからないものはわからないのであるからして」


「ちなみに、今日の夜ごはんは肉じゃがだ」


「今回は本当に夕食のことではないわっ! だが、今日の夕食は肉じゃがであるか……。美味しそうであるな」


「やっぱり、夜ごはんのこともあるんじゃ──」


「だから、今回は関係ないわ!」


 ソフィーとそんなやりとりをしながら、家に帰ったのだった。


 家に着くと、いつもならのあが出迎えてきて、そこでいつも一悶着ひともんちゃくあるのだが、今日は一悶着それどころか、出迎えることすらしなかった。

 どこか出かけてるのだろうかと、リビングに入ると、スマホをイジる希空のあが目に入る。


「ああ、ただいま」


「あー、お兄ちゃんお帰り。夜ごはん、今日私が作るよ」


 いつもと雰囲気の全く違う妹の様子に、驚きを隠せない。

 いつも、あれだけ俺に迫って来てはキスしてやなんの言ってきたというのに。

 それに、夜ごはんを作るだなんて。

 そこで、俺は一回だけ妹が夜ごはんを作ってくれたときのことがフラッシュバックする。

 そのときの料理は見た目よろしく、味までデタラメという出来だった。

 正直、あれを食べてる身としては、お願いしようかなとは言えない。

 だって、あのときは俺が横で手伝いながらだったのだから。


「あー、今日はもう夜ごはん決まってるからさ。また今度な」


 そう言って、軽く誤魔化しておく。

 正直、本人のやりたいを無下にするのは心がいたむ。


「で、でもー」


「時間も少し遅くなったしな」


「う、うん、わかった」


 けど、俺はいつもと様子の違う妹に戸惑いを隠せなかった。

 本当、悪い虫でも食べてないか心配になる。

 それでも、俺はいつもの調子で夜ごはんを作り、いつもの時間に間に合わせた。

 そして、夜ごはんを食べるときには、いつもののあに戻っていた。


「あっ、にぃ、お口を開けて? はい、あーん」


「いらねぇ! 自分で食べれるわ」


 と、そんな具合に。

 けど、それはいつも通りに見えて、どこか違ってるような気がしてならなかった。


「あの、お兄ちゃん。どこか具合でも悪いんですか?」


「えっ、どした?」


「その、いつもと違う様子だったから」


 少しボーッとしてると、妹にそう言われていた。

 いつもと違うのは俺の方なのだろうか。

 けど、あの妹が心配するほどには、今の俺がおかしいのだろう。


「疲れてるのでは? それなら、今日は早めに休まれてください。後片付けはしておくから」


「ああ、そうするよ」


 そう言って、俺はお風呂に入ると、妹の助言通り、早めに眠りにつくことにした。


 ✻


「にぃは私のこと好き?」


「いや、別に特には……」


「う~ん、じゃ、キスをして欲しがる妹は好き?」


 少し意地悪をするつもりで俺はこう言っていた。


「どちらかと言えば、少し嫌だな」


「──っ! そっか。やっぱりそうなんだ」


「うん? どうした? おい」


「いや、なんでもないよ。にぃ、バイバイ」


 そう言って、遠ざかっていく希空のあに嫌な感じを覚える。

 本当にいなくなってしまうかのような、そんな感じ。


「おい、どうしたんだよっ! どこに──」


 そこで、俺は目を覚ました。

 くそっ、とんだ悪夢だ。

 そう思って、なにか飲むためにリビングに行くと、そこである違和感に襲われる。

 なにかがおかしい。

 今まであったものが、なくなっている。

 嫌な予感がした。

 くそっ……。

 そう思って、俺は妹の部屋に行くと、そこは…………ただの空き室になっていた。

 俺は一度、一呼吸終えてからリビングに戻って、とりあえずなにか飲む。

 そして、俺は自分の部屋に戻ってコンセントからスマホを外し、両親に電話をかけた。

 本当、久しぶりにかけるなぁ~、なんて気を紛らわしながら。

 そして、父、母から返ってきたのは、


希空のあ? そんな子は知らないけど。母さん知ってるか?」


希空のあ? う~ん、知らないわね……」


 残酷で無慈悲な答えだった。

 俺はなにも返せず電話を切ると、理解した。

 いや、電話をかける前からわかっては、いた。けど、わかりたくなかった。

 それでも、現実は事実を残酷なまでに突きつけていた。

 のあという存在が、この世界から既に消失してることを。


 その日、俺は学校もバイトも欠席した。どっちにも早目に連絡はしておいた。

 一応、家では最低限のことはやった。

 けど、何をするにしても身が入らなかった。

 と、適当に夜ごはんを作っていると、家のチャイムが鳴った。

 理由はなんとなくわかる。きっと、お見舞いだろ。いつもなら、ズル休みしたことに罪悪感を感じるのに、今はそれすらも感じなかった。

 だから、俺は火を止めると何も考えず、玄関のドアを開けていた。

 そして、そこにいたのはまるで予想もしていなかった人物だった。


「せんぱい、私。後輩の色葉いろは春風色葉はるかぜいろはちゃん。学校休んだと思ったら、バイトも休むからお見舞いに来てあげた」


「そうか」


「それと、今日は大事な話がある」


「悪い、今日は帰って──」


 そう言おうとして、彼女はこう言って、頭を下げた。


「先輩。いえ、みなと先輩。好きです、付き合ってください」


 →○●●●


「次回予告ー」


「……」


「なあ、もしかしてだが、本当に喋らない気じゃないよな? なっ!」


「(いや、ここで妹の私が喋るのはおかしいでしょ)」


「いや、でもその方が楽か。次回、後輩の告白の結果は如何にっ!」


「(にぃが告白されたこと聞いてなかったんだけど?)」


 ●●●○→

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黒き蝶々と神様からの贈り物(エッセンス) 〜黒き蝶々はロリ美少女(神)に秘密(女装)を握られ脅されまして〜 アールケイ @barkbark

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