十二話 紙袋(下着)と写真

 はあ、なんだか、今日は色濃い一日だった気がする。

 そんなことを思いながら、陽葵ひなと歩いていた。

 時間的にはまだ、おやつぐらいの時間。

 陽葵ひなは、俺のことを気使って、早めにお茶の時間を取ってくれた。

 正直、気持ちの面ではもう夕方な気がしてならない。


「ねえ、みーちゃん。今日、どうだった?」


「う~ん、楽しかったかな」


 なんとなくしんみりとした気持ちになる。

 こういうのは、時間帯じゃないんだなと思う。


「私も、とっても楽しかった。今日はありがとね、みーちゃん」


「それは、私も同じだよ~! 今日、誘ってくれてありがとう。女の子と一緒に来たらこんな感じなのかなって、とっても勉強になった」


「勉強になったのかはわからないけど、私も普通に女の子と来てるときと変わらなかったかな。それに、ときどき本当に女の子なんじゃないかって思わされるときあったし」


「そっか。それじゃ、ちゃんと私、女の子できてたんだ」


 本当の女の子である陽葵ひなからお墨付きをもらったから、たぶん周りの人からはかわいい女の子にしか見えないんだろうな。

 バレないという点ではいいけど、普段の生活でそういうボロが出ないようにしなくては。


「あっ、その、少し寄りたいところがあるんだけどいいかな?」


 と、陽葵ひなにそう言われ、俺はスマホで時間を確認してから首を縦に振る。

 乗らなきゃいけない電車が来るまで少し余裕があった。


「えっと、その、コンビニに寄りたいんだけど……」


「いいけど、なにかあったの?」


「その、えっと…………」


 そう言うと、顔を真っ赤にさせ、もじもじしだす陽葵ひなに、見てるこっちまで少し恥ずかしくなってくる。

 一体、なんだというのだろうか?

 なんとなく、少し顔が火照ほてってきたのがわかる。


「あの、聞こえても、その、聞こえてない振りをして、ね?」


 陽葵ひなの破壊力抜群の上目遣いでそう言われ、俺の心はなにかに撃ち抜かれたかのようにノックアウトする。


「えっと、と、トイレに、行きたくて……」


 陽葵ひなから飛び出てきた、思いがけない言葉に、なんとなく納得する。

 ああ、だから。

 俺は、見た目だけは女子であるが、その中身は男子である。

 つまり、男である俺にトイレに行きたいということを言うのが恥ずかしかったと。


陽葵ひなちゃんも、充分かわいいよ」


「あっ、あああぁぁぁぁ………………っっっ!!!」


 俺がそう言うと、プシューと湯気でも出てきそうな勢いで顔を真っ赤にさせ、陽葵ひなもだえ始める。

 ふっ、これが今日何度か俺が味わった苦しみだ。

 それがわかったら、今後は少し、てか、もうやらないように。

 と、俺はそんなあくどい顔を浮かべながら陽葵ひなのことを見てると、こう言われた。


「もう、みーちゃんのバカっ」


 そんな、少しの抵抗すらも、今の俺にはかわいく映った。


 それから、近くのコンビニを見つけ、寄ることにする。

 適当になにか買ってから陽葵ひなより先にコンビニを出て待っていると、程なくして陽葵ひなも出てきた。


「えっと、お待たせ」


「もう、陽葵ひなちゃんだって、今日なんどかやったんだから、お互い様でしょ? だからそんなムスッとしないでよ~」


「だって、私はそのときちゃんと謝ったけど、みーちゃんにはまだ謝ってもらってないもん」


「か、かわいい」


「も、もうー! 私は本当に怒ってるんだからね」


 そうは言うものの、陽葵ひなのそんなところもかわいいのだから、仕方ない。

 いや、もしかしてあのときの陽葵ひなもこんな気持ちだったのでは?

 確かに、それなら苛めたくなるのもわかる気がする。

 わかったら負けな気がするけど。


「でも、そうだよね。うん、ごめんね」


「うん……」


 それでも、とりあえず仲直りはしておく。

 喧嘩ってわけじゃないけど。


「それで、その、みーちゃん」


 駅に向かって歩き出してすぐ、陽葵ひなに呼ばれ歩みを止める。

 けど、そんなことはつゆも知らない陽葵ひなは歩き続けている。


「……って、なんで止まってるの?」


 すぐに気づかれた。

 正直、自分でもなんで止まったのかはわからない。

 なんとなく、陽葵ひなに呼ばれたから止まってしまった……わけじゃないことだけはわかる。


「えっと、みーちゃんに渡したいものがあるんだけど、歩きながらでも大丈夫だよ? えっと、どっちかと言ったら歩きながらの方がいいかも」


 そう言われ、なにかがおかしいことに気づいた。

 けど、それがなにかはわからない。

 いや、もしかしたらこれがソフィーの言っていた奇跡の力コクリトファイスを誰かが使ったときの感覚なのだろうか。

 もし、そうだとするなら、使われたらわかると言われた理由がわかった気がする。

 けど、これは陽葵ひなからじゃ

 そんな近くじゃない。


「えっと、大丈夫、みーちゃん?」


「えっ、あっ、うん。えっと、それで渡したいものがあるんだよね?」


 そう言って、なにごともなかったかのように陽葵ひなのもとに駆ける。

 とりあえず、今は陽葵ひなだ。

 駅までだって、もうそんなに遠くない。

 奇跡の力コクリトファイスのことかはわからないけど、この嫌な感じのするは後回しだ。


「そうそう。その、今日一緒に遊んでみて、本当に楽しかったから、そのお礼というか、えっと、ご褒美っ! そう、ご褒美をあげようと思って。その、これ、はい……」


 そう言うと、陽葵ひなは一つの紙袋を俺に押し付けてくる。

 なんというか触った感じ、よくわからない感じの形状をしてることだけはわかる。


「えっと、今開けてみてもいいかな?」


「う、うん……」


 陽葵は少し赤面し、もじもじとしながらそう言う。

 なんだろう、その反応。

 そうは思ったものの、とりあえず紙袋の中身を確認してみることにする。

 そこに入っていたのは、下着だった。

 もちろん、それは新品のもの。タグまでついてるから、たぶん確実。

 だから、きっと陽葵ひなのつけてたやつとか、そんなことはない。絶対。


「えっと、これは…………」


「その、さっきショッピングモールで、私が下着を買いに行ったタイミングがあったでしょ? そのときに買いに行ったの、私のじゃなくて、みーちゃんのを買いに行ってて」


「それは、うん。とりあえずいいとして、その……サイズとかはどうしたの?」


「ほら、試着室に入ったときに……」


 なるほど、これは計画的犯行だったわけか。

 とりあえず、これが陽葵ひなのつけてたものでないことが確定しただけでもう充分だろう。

 そうして、俺は自分の鞄に紙袋それをしまおうとしてると、パシャリとなにものかにカメラで撮られる。

 だれが写真なんかと思って顔をあげると、


「みーちゃん、この写真撮ったからね」


 それは陽葵ひなだった。

 そして、こう言ったのだった。


「また、遊ぼうね。ちゃんと約束を守ってくれたら、私もこれを拡散あれしなくて済むから」


 どうやら、まだこの奇妙な関係は続くらしい。

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