十一話 髪飾り

「それじゃ、答え合わせだけど、正解はでした!」


「えっと、服屋さんじゃないのはわかるけど、ここって言われてもわからないよ~」


「えっ? あっ、そうだよね。えっとね、ここは雑貨屋さんで、いろいろな小物とかちょっとしたアクセサリーを扱ってるお店。えっと、みーちゃんは来たことないの?」


「う~ん、ないかも。確か陽葵ひなちゃんはよく来るんだよね?」


「えっと、うん。ほら、お洒落な小物とかが多いから、ついつい見に来ちゃうんだよね。意外とかわいいアクセサリーも多いんだよ。えっと、今も身につけてるこの髪飾りなんかはここで買ったんだ」


 そう言って、髪飾りを指差して見せてくれる。

 正直、似合ってるし、かわいい。

 けど、陽葵ひなと同じ髪飾りを俺がつけても、あんまり似合わないだろうな。


「汝、ちょっとよいか?」


「うわっ!」


 と、そんなことを思っていた矢先、またもや生えてくるように現れる、ソフィー。

 今回は地面から生えて来たけど。

 だから、なにかもっといい現れ方とかないのだろうか。


「えっと、みーちゃん大丈夫?」


「えっ? あー、えっと。その、目に虫が入ってきちゃって……。全然大したことじゃないから、大丈夫」


「汝、大したことじゃろ。それに、なんじゃ虫って! 我は虫でもなければ、大した存在であるぞっ! あっ、我のことなら他人には見えておらんし、声も聞こえておらんから安心せい」


 今のこの状況で、どう安心しろと?

 不安以外にあるわけがないだろ。

 それに、俺はソフィーに対して、どう言葉を返したらいいんだよ。

 俺の言葉は周りの人にも聞こえるんだよ。


「汝、そういう──」


「そっか。急に大声を出したから、なにごとかと思っちゃった。でも、虫なら……よくないかも。私、虫って嫌いなんだよね。みーちゃんは虫平気なの?」


「いや、全然。虫って生理的に受け付けないというか、見てるだけで気持ち悪いというか……。ああ、虫には悪いと思ってるんだけど」


「そっか、そうだよね。虫は嫌だよね」


「汝、虫だけに我のことも無視しとるのかっ!」


 うっ、なんか急に寒気が……。

 でも、一体だれがダジャレなんかを?


「我じゃ! 神であり、又の名をソフィーという」


「はぁ」


「わざわざ、ため息をするんじゃなーい! いいか? 我は汝に用があって来ておるのだぞ?」


 てか、俺はソフィーに対し、まともに声も出せないのに、どうやって言葉を返せと──。


「だから、我は心が読めるのだから、適当テキトーに思えばよかろう。……って、さっき汝が好き勝手に虫の話をして我を無視してる間に言ったじゃろっ!」


 うわっ、また言ったよ。


「顔だけでなく、心の中でも思うでない。ハァハァ……なんで我がこんなにも疲れなくてはならんのだ」


「それじゃ、入ろっか。さっき時間確認してたけど、それは大丈夫?」


「あっ、うん。そろそろ時間かなと思ったんだけど、意外とまだあった」


「そっか。でも、時間はもったいないから行こうー!」


 と、ソフィーはなにものかの仕業によって少しバテてしまったので、俺は陽葵ひなに連れられて、店内を見て回ることにした。

 一体、誰の仕業なのか、俺には全くわからない。

 もしかしたら、そこには見えない何かがいて、こうなってしまったのかもしれない。


「汝、どうせわかってて言っているのだろう? ただ、そこにあえて、あえてツッコミを入れる。そんなの、汝のせいに決まってるであろう…………っっっ!!!」


 ソフィーの発したその悲鳴は、結局俺の耳にしか届かなかった。


 ✻


 ある程度店内を見て回ったあと、陽葵ひなはこう言った。


「それじゃ、そろそろ約束通り、私に似合うの、そうだな、髪飾りを選んでもらおうかな。あっ! 今使ってる、この髪飾りと同じのはだめだよ?」


「う~ん、わかった」


 はあ、そうだった。

 普通に忘れてた。どんなのがいいんだろうか。


「あっ、私はこの辺の見てるから、決まったら教えてね」


 そして、陽葵ひなはニコリと微笑んだ。

 そんなわけで、陽葵ひなに似合う髪飾りを探すことにした。


 そうして、ふらふらと見て回っていると、


「汝、なぜ我を避けるのじゃっ! 話があるからこうして来てるのであるぞ!」


 うざったいソフィーに絡まれていた。

 どうせ夜ごはんのことだろう。そんなのに構ってらんない。

 それに、まだ夜ごはんは決まってない。


「違うわっ! いや、違わないのじゃがな? でも、違うのじゃ!」


 やっぱりか。

 今は、陽葵ひなに似合う髪飾りを探さないといけなくて忙しいのだから、邪魔はしないでもらいたい。

 そもそも、陽葵ひなに似合うのとなると、正直なんでも似合いそうな気がするから、そのせいで余計に悩む。


「汝、おかしくないか? 我は永久のときを生きる神であるぞ? 永久のときを生きる神であるぞっ! それなのに、この扱いというのは、少しおかしくはないか」


 なんだ、まだいるのか。

 正直なところ、雑に扱ってる自覚はある。

 けど、今は陽葵ひなとの大切な時間なのだ。

 それを邪魔してくるのだから、扱いもそれ相応のものでも仕方ない。


「それは、さすがに傷つくぞっ! 神であっても、傷つくぞっ! それに、雑に扱ってる自覚があるなら、少しは直せっ!」


 とにかく、今はソフィーではなく、陽葵ひなの髪飾りが重要なのだ。


「わかった。まあ確かに、急を要してるわけではないからな、汝の要求通りまたあとでにする。ただ、奇跡の力コクリトファイスのことは気にかけておくのだぞ」


 そう言うと、ソフィーは地面の中に消えていった。

 今回は、どうやら引っかからなかったらしい。

 と、そんなとき、一つ髪飾りが目につく。

 それを陽葵ひながつけたときのことを想像してみる。

 うん、よく似合う。

 自分の中で、なにかがハマる感じがした。

 そして、レジに持って行き、購入してから、その辺でなにかを見ていた陽葵ひなに声をかける。


陽葵ひなちゃん、いいのが見つかったよっ!」


「見せてもらっていいかな?」


「これなんだけど……」


 そう言って、見つけてきた髪飾りを見せる。

 俺の中では凄く似合うと思ったが、陽葵ひなとしてはどうなのだろう、というそんな緊張から心臓がドキドキする。


「うんっ! すっごくかわいい。それじゃ、これにしよう」


 陽葵ひなに気に入ってもらえたことからの安心感で、俺は胸を撫で下ろした。

 そして、レジに行こうとしてる陽葵ひなを呼び止める。


陽葵ひなちゃん。それ、プレゼントの約束でしょ?」


「あっ、そうだった。私ってば忘れてた……」


「もう~!」


 そうして、俺は時計を確認する。

 時間的にも丁度いい時間帯になっていた、


「えっと、陽葵ひなちゃ──」


「そろそろ帰ろっか。だって、みーちゃん、みなとくんはすることが多いんだもんね」


「うん、それじゃ帰ろ」


 そうして、二人一緒に並んで、駅に向かって歩き出した。

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