十話 クイズ

「それじゃ、次に行こっか」


「次?」


「もう一軒、お店に寄ろうと思うんだけど、なにか行きたいところとかあったかな?」


「いや、そういうことじゃないんだけど……」


 そう言いながら、時計を確認すると、思ったよりも時間に余裕があった。

 てっきり、もう夕方かと思ってただけに、意外と時間が経つのは遅いなと思う。

 これはきっと、あのときの試着が原因だろう。

 あんなことをされたらから、疲れて時間感覚が少しおかしくなったに違いない。

 けど、時間がないと思ってた分、まだ一緒に遊べるのはなんか得した気分ではある。


「? ……大丈夫、だよね?」


「えっ、あっ、うん。それで、これからどこに行くの?」


「えっとね…………いや、やっぱりクイズにするね」


「クイズ?」


「そう、クイズっ!」


 なんだが、陽葵ひなはとっても楽しそうにしている。

 いや、からかって遊ぶつもりなのか?


「えっとね、ヒントは女の子がよく行く場所かな、たぶん。その、私の場合は一人で学校から帰るときとかによく行くんだけど、他の子はよくわからないかも」


「そうなんだ。それで、私はそれを当てればいいの?」


「そうそう。制限時間はお店の近くに着くまで」


「えっと、あと二分とか三分じゃ着いたりしないよね?」


 さすがにそんなことはないと思うけど、念のため。


「うん、さすがにそんなに近くじゃないよ」


「うん、それならわかった。当てられたら、なにかあるの?」


「う~ん…………それじゃ、そこのお店で私のお気に入りを買ってあげる」


「わかった。絶対だよ?」


 と、そう言って見たものの、全く見当すらもつかない。

 う~ん、陽葵ひなが一人で学校から帰るときによく寄るお店。

 さすがに、今日もう寄ったお店はいかないだろうし。

 えっと確か、最初にフードコート…………はお店じゃないか。えっと、服屋に下着……は、俺は行ってないけど、そのあとに喫茶店。

 意外と行ったお店は少ないのか。

 てっきり、あと三店舗は行ったと思ってた。

 思ってただけで、行ってない。


「あっ、一つ言い忘れてた。回答券は一回までね。それと、間違えたり、時間切れになった場合は、そこのお店でみーちゃんは私に似合うものを一つ買ってもらいます」


 回答券は一回だけ。

 まあ、そりゃそうか。

 ただ、似合うものってことは、きっと身につけるもの。

 それじゃ、もう一度洋服屋か?

 女の子だったりすると、洋服屋に二度行くことだって、普通にありそうだし。

 けど、靴屋くつやも…………ないか。

 靴って、思ってるよりも高いし。

 それだと、二度目の服屋ってことか?

 いや、鞄屋かばんやか?

 ……って、だから、くつとかかばんは思ってるよりも高いんだよな。

 洋服だったら、ときどき買いに来れるし……。

 ぐぬぬぬ……。


「もう、そんな目をしたって、ヒントはあげないよ?」


「どうしたら、ヒントをくれるの?」


「えー、どうしようかな~」


 あっ、これはダメなやつだ。

 くそっ、選択を早まったか。

 陽葵ひなの目がこう言ってる、何をしてもらおうかなと。


「ひ、陽葵ひなちゃん……っ! 一体、私になにをさせるつもり?」


「もう、そんなに怯えなくても、なにもしないから安心してよー」


「本当に?」


「うん、その代わりヒントはなしだけど」


「それって、ヒントが欲しかったら、なにかさせるつもりだったんでしょ!」


「だって、みーちゃんってば本当にかわいいんだもん! こんなの、もったいないよ~」


「それは、その、嬉しいような、そうじゃないような……」


 なんとも複雑な気持ちである。

 外見がかわいいのは知ってるし。

 けど、行動とか仕草が女の子らしくてかわいいというのは、男としてなんか悲しい。

 けど、今は女装してるから、なんとも複雑である。


「とにかく、ヒントが欲しいのなら、それなりのことをしてもらわないと」


「うっ…………」


 いわゆる、ヒントを教えてあげることへの対価をよこせと、そういうことらしい。

 これはもう、諦めるか。

 全然わからないし。

 と、俺は最後の抵抗とばかりに何か言っておくことにした。当たるかもしれないし。


「それじゃ、服屋さん」


「うんうん。それじゃ、もうすぐで着くと思うから、そこで答え合わせといこうかな」


 そう言うと、陽葵ひなは少し足を早める。

 ……って、ここで答え合わせとかそういう感じじゃないのかよ。

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