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この奇妙な同棲生活は何も今に始まった事ではない。この地での学校生活が始まった後、ちょっと経った位の時には既にそこにいた。
かなり性にだらしのない、家事もろくにできないようなダメ人間。煙草は吸わないが酒が好き。帰ってくる頃には酒缶が大量に入ったビニル袋を手に満面の笑みで待っている、そんな奴。得意料理はカップラーメンとチャーハンがちょっと、そんな奴。掃除はしない主義。何故なら今の散らかったこの状況が一番物の位置を把握できるだのうんたらかんたら、そんな奴。極めつけは無職、そんな奴。どう頑張ってもダメ人間。そいつをペットとして今私は飼ってやっているのだ。おーよしよし良い子だねー、髭。
コンコン、ぱか。ちゃかちゃかじゅう。
『大丈夫、あなたは殺していない、悪くない』
昨日の問答を思い出してまた顔を歪めた。
お前達如きに私の何が分かるというのだ。
ぐちゃぐちゃに卵液をかき混ぜて、固まりゆくそのふわふわを畳んだ。フライパンを振って形を整える。一応二つ作っておく。
ごはんをよそって整え、手に付いたごはん粒を口に含んだ。――その瞬間昨日の唾液の感触を思い出してそっと首筋を撫でる。
また体が火照った。腕に滲んだ握力と汗ばんだ前腕、鼻腔に花咲く薔薇と粘つくアルコール、男のにおいが少し。まだ耳腔に愛撫の台詞が濃く残っている。
尖り穿つ髭。
……柄にもない。傷は深い。
強めに首を振って卵を皿に移した。首筋に残った傷跡に雑に絆創膏を貼った。
ひとりぼっちの食卓をまた囲む。
「じゃあ! ごはん作っておいたから! 早くに食べるんだよ!」
こんな時でも彼は絶対に見送ってくれない。朝は彼の生きる時間ではないからだ。
だから毎朝この時間は少し憂鬱。
別にアイツが好きとかそういうのではなく。何なら今すぐ出てってもらえれば食費とか諸々が浮くので助かる。
でも、私もアイツも独りでは生きていけない。だから仕方なく一緒にいる。
ただ私達はお互いあぶれ者同士だからここに集まって細々生きているだけ。
ターゲットになる必要は全くないはず。
それなのに。
「特別監察中」
手の中で赤々と書かれた文字列に溜息を吹きかけた。
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