第16話 日本食とは(前編)

昼食をとるため、村上さんが紹介してくれた日本食店Mt. Fuji に向かう。



「えー?どうせ味違うじゃん。ピザかマクド行こうよ〜……。」



正直、私はあまり期待していなかった。



Japanese steak houseという名前が入った店舗は案外多く存在し、田舎から少し出れば簡単に見つけることができた。


移住して約二ヶ月経った頃、その中の一つに一度だけ訪れたことがある。


店内に入ると、私が想像していた雰囲気とは全く違った。

鳥居をイメージしたのだろうか。

柱のほとんどが赤に染められており、通路の壁は障子をイメージしたデザインが施されていた。照明が少し暗く、案内された席へと進んでいく。


どうやら鉄板焼きがメインのようだ。広い部屋に八箇所ほど、長いテーブルが大きい鉄板を囲むように設置されていた。

各テーブルごとに白い服と白い帽子を纏ったコックが立っていた。


話しかけると日本人かと思いきや中国人。ヘラで卵を割らず宙に浮かせてキャッチしたり、卵の殻を頭上へ投げて帽子で一発キャッチしたり、ヘラでジャグリングしたり。

まるでサーカスみたいで、私は純粋に楽しんでいた。


料理が出来上がると、コックが父に口を開けるようにと指示をする。コックは鉄板で作った焼き飯のエビをヘラに乗せて、声をかけた。



「You ready? Three......Two......One!!」



コントロールが少しうまくいかなかったのか、エビが父の顔横を通り抜け、地べたに落ちる。



「Oh!! One more time! You ready? Three......Two......One!! 」



今度は少し位置が低く、父の服を滑って足元にエビが落ちた。



「This is your last chance! You ready? Three......Two......One!!」



見事に父の口の中へと入っていった。



「Nice catch, man!!」



コックが成功し、すごく嬉しそうにする。


どうやらショーを見せながら焼き飯とステーキを作るのがお決まりのようだ。


場が盛り上がる中、母が落ちたエビを気にして拾おうとする。

だが、後で店員が片付けるからそのままでいいとコックに言われた。



日本に住んでいた頃から、ご飯で遊んだり粗末にしてはいけないと母に教わっていた。

そのため幼いながら、今置かれている状況に少し違和感を感じた。



寿司を頼んでみるとシャリは酢飯ではなく、力強く握られた普通の白米だった。

しょうゆはアートのように事前にかけられており、食べるとわさびが入っていなかった。刺身も分厚く長方形に切られており、とても日本のお寿司とは思えなかった。



あまりこだわらない父だったが、なんとなくノリでコックに話しかける。



「Uh……Is manager Japanese?」


「Umm, no?……I don’t think so! I think he was Korean.」



清々しい笑顔で堂々と答えられた。どうやら店長は、日本人じゃないらしい。コックは中国人の方で、店長は韓国人の方とのこと。父が流れで自分たちは日本人であることを笑顔で明かす。



「We are Japanese!」


「……Oh, really? Oh, wow! Welcome! Please enjoy!」



コックが少し苦笑いし、楽しんでと言い残してその場を去っていった。こちらとしても「日本人はいないの?」と聞く気になれなかった。



隣のテーブルにいたアメリカ人家族の嬉しそうな声が聞こえてくれる。



「This Sushi is very delicious! I'm so proud that Japanese people have high cooking skills! Nice show!」



寿司が美味しいと喜んでいる。日本のコックがするショーは最高だと感動していた。日本の文化が勘違いされる瞬間を初めて見て、これがここでは普通なんだと小学生ながらに悟った。

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