第10話 日本好きの臨時教師
現地校に通い始めてから二ヵ月が経とうとしていた。
クラスの生徒は約二十名。差別は一切なく、全員が私を温かく受け入れてくれる。
私は泣くことが徐々に減っていった。
頭を上げ少しずつ前を向くようになった私を見て、スカーブラ先生は嬉しそうにしていた。
両親は、報告を受けていたのだろうか。
帰宅すると、少し成長した私を見て母が喜んでいた。
「くるみ、少しは慣れてきた?せっかくだし今日から自分の部屋で寝よっか。」
勢いに乗って、母が私に提案をする。
母は、うろたえる私をそのまま部屋に連れて行く。電気をつけると、そこにはクイーンサイズで高さ約70センチのベッドがあった。
日本の小学新二年生で、背の順が前から1から2番目だった私。ベッドだけは会社ではなく父が事前に購入してくれたそうなのだが、正直高すぎるし大きすぎる。
よじ登ろうとするが失敗したため、小さい椅子を階段代わりにして上に乗る。寝転ぶとベッドの大半のスペースが余っていて、すごく寂しく感じた。
一人で寝るなんて嫌がったが、母は問答無用でその場に私を置いて去った。
真っ暗でシーンとした部屋。
「ボーーッ!……ボーーッ!……」
あぁ……またこの音だ。
貨物列車の音が部屋全体に響き渡り、私はベッドに潜り込む。
結局、恐怖でなかなか眠りに着けなかった。
夜が明け、学校に行く準備をする。
「あ、くるみ。今日から個別で臨時教師がついてくれるらしいから。」
「りんじきょうし……?」
よく分からなかったが通常通り登校し教室を入っていくと、そこには初めて見る五十代後半ぐらいの女性が立っていた。
「You クルミ?コンニチワ!メアリーワットソンデス。ヨロシクオネガイシマス。ミスワットソン、ヨンデクダサイ。」
初めて学校で日本語を話す人に会った。私は、感極まって日本語で勢いよく返事をする。
「日本語しゃべれるの?すごい!でも、どうして?」
「Umm...... I'm sorry Kurumi. I can only speak Japanese a little bit. ゴメナサイ。ニホンゴスキ。デモonlyスコシ。」
英語交じりで少しがっかりしたが、親近感がわいて純粋に嬉しかった。
外国人でも日本語しゃべれるんだ……。
「ガンバリマショー!」
そう言って英和辞典を渡された。
なにこれ。使い方分からない……。
七歳の私に、紙辞書は難易度が高かった。
それどころか家にある電子辞書すら、母は私に持たせていなかった。
困惑している私を見て、ワットソン先生がすぐに状況を理解してくれる。
「It's okay. I have others for you to study.」
そう言って、保育園児用の教材など他にも色々出してきた。
「メアリー and クルミsame. ワットソン is last name. アメリカデハ、ミスワットソン。Not メアリー or センセイ。」
この時ワットソン先生が、思ったより日本語がしゃべれないということ。そして日本が好きで、事前に少し文化の違いを勉強してくれているということに気づいた。
彼女に好印象を持った私は、すぐに心を許した。
家に帰宅し、ワットソン先生の話を母にする。母は嬉しそうにそれを聞き、付け加えるように話してきた。
「優しい人で良かったな……。あ、くるみ。今週から毎週水曜日は、幸子さんに英語の勉強を教えてもらうことになったから。」
「え、幸子さんって……あの?」
「そう。教材も準備してくれてるから、失礼のないように会ったらまず挨拶しよな。」
次から次へと、新しいことが始まる。
不安な気持ちでいっぱいだったが、とりあえず頷くしかなかった。
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