第8話 逃れられない宿命
どれだけ助けを求められようが、どれだけ限界を迎えようが、宿命から逃れる方法が見つからない。
私の両親は、かなり頭を抱えていた。
日本人学校に月曜日から金曜日まで通わせるべきか?
しかし、家から車で往復四時間かかってしまう。これを毎日継続するのは難しい。
日本にこの子だけ帰らせるべきか。
祖父と祖母なら喜んで面倒を見てくれるだろう。だが、家族と離れて生活を送ることがこの子にとって幸せなのだろうか。
もしくは旦那だけアメリカに残して、子ども達と日本に帰国するのはどうだろうか。
五、六年間、妻一人に子どもたちを任せてしまっていいのだろうか。
夫婦でなかなか答えが出ない。
母は、こっそり自分の部屋で電話をしていた。どうやら祖母に相談していたようだ。
たまたま部屋に入ってきた私を呼び止める。
「くるみ、ちょっとこっちにおいで。電話出てみて。」
「もしもし……。」
「……くるみちゃん?元気にしてる?おばあちゃんすごく心配してたんよ?」
その瞬間、涙が溢れでた。
「おばあちゃん……!!!おばあちゃん、おばあちゃん……どこにいるの?寂しいよ、会いたいよーー……」
泣き崩れる私の声を聞き、祖母もつられて鼻をすする。
「くるみちゃん……かわいそうに……毎日辛いね?よく頑張ってるね?おばあちゃんね、今はくるみちゃんと会えないの。でもね、悲しくないよ?おばあちゃん今もこうやってくるみちゃんとお話しできてるもの。」
「いやや……会いたいよ……。」
「実は、くるみちゃんが学校頑張って通ってるの知ってるんよ。おばあちゃん、ずっと空から見てたから。今は会えないけど、一生懸命頑張ったら必ず会えるし、毎日くるみちゃんのこと考えてる。」
「ほんとに……?」
「もちろん!!おばあちゃん、くるみちゃんのこと大好きだもの!今日ね、くるみちゃんが大好きなお菓子いっぱい買ったんよ。それ送るね?あとね、お兄ちゃんたちの分はないんだけど、くるみちゃんにだけ特別にプレゼント用意してるからつけてね。」
「プレゼント……?」
「そう。すごくきれいよ~。いっぱいつけてくれたら嬉しいなぁ~。」
「分かった……待ってるね?」
久々に見せた笑顔。
それを見て、母は少しホッとした。
七歳児の私にとって、かなり負担のかかる選択だとは分かっていた。
だが、父は家族五人で一緒に暮らすことが一番の幸せだと思い、現状維持でアメリカ生活を続けようと決意する。
数日後の晩、父が今の生活を継続することがどれほど大切か、私に分かりやすく説明していく。
父の決断を受け止めきれない。
候補にあった他選択肢も納得できない。
みんなで日本に帰りたい。
叶わない私の思いとは裏腹に、父がこれだけは覚えておきなさいと私にアドバイスをする。
「くるみ。I don't knowとI have stomachacheだけは絶対に覚えとけ。分からないときやおなかが痛くなった時に伝えればいい。この言葉を忘れずに覚えておけば、絶対お前を守ってくれるから。」
私は父からメモを受け取り、その言葉を信じて泣きながら小さく頷いた。
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