第12話 予想以上の成果

次々と迎える新しい出来事。

環境が変わるのは嫌だ。だが自然と拒否することは、なくなっていった。


おそらく普通の生活に対する基準が分からなくなっていたのだろう。もはや自分の意見が通る通らないなど気にしなくなり、与えられた道を歩むことだけを考えていた。


悲しくても苦しくても、立ち向かう。みんなも同じように苦しんでるから、私ひとりじゃない。


自分に言い聞かせすぎて、考えが体に染みついてしまっていた。



あれから数週間経った夜中二時頃、私は高熱を出してしまう。

力全てを出し切って父と母の部屋へ行き、ベッドで寝ている二人の体を揺さぶる。



「苦しい……。」



体温計で測ると三十九度四分もあった。体がぐったりしていて、もう動くどころか声を出す力もなかった。父と母は慌てて会社の同僚に助けを求め、紹介された病院へと私を連れていく。


何を食べ、どのように過ごしていたか、次々と医者の質問に答えていく。

採血も取った。だが原因は不明とのことだった。最後に医者が英語で告げる。



「食や環境の変化により、おそらく疲れがたまったのではないでしょうか。」



思い当たることがありすぎて、くるみにそこまで負担がかかっていたのかと両親は思い知らされる。

車椅子に乗った私を心配そうに見つめる母。もう海外生活は限界なのではないかと思ったらしい。



「お母さん、くるみ大丈夫だよ。ねぇ!私車椅子はじめて!押して押して!」



この時の私は、ただただ初めて乗る車椅子が嬉しくて浮かれていた。

そして父と母の心配とは裏腹に、今の生活は当たり前なんだと割り切っていた。



熱も下がらず緊急事態なのに……。



無邪気に笑う私を見て、父と母はホッとした。


もう少し一緒に頑張ってみよう。


そう勇気づけられたらしい。



三日ほど過ぎてから、風は治った。

そして元の生活が戻る。


国語の時間は少し抜けて、ミスワットソンと勉強。残りの国語の時間は、聞くだけ。


算数の時間は、大親友のステッファニーが横でフォローをする。


毎週水曜日は、幸子さんと英語の勉強会。



現地校に通い始めて三ヵ月が過ぎた頃、私は確実に成長していた。


算数の授業は普通に参加できるようになり、短い文章問題を解けるぐらいまで上達していた。


それどころか計算式までクラスメイトに教えるようになった。plus、minus、add、subtract、equalや、数字の単語さえ覚えておけば簡単に説明ができた。



ある日、ミススカーブラが生徒に説明し始める。



「You all will learn "times" in the future.」



将来は、タイムズを学ぶ……?



気になった私は記号を見て、掛け算のことだとすぐに分かった。



「Mrs. Scarbra! I know this!」



知っているとミススカーブラに伝える。

彼女の顔を見ると、かなり驚いていた。


半信半疑で私に問題を出してみる。



私は引っ越し前に日本の小学校ですでに二の段まで完璧に覚えていた。


二の段含め、三の段も少しだけ解答してみる。



「Wow...... Amazing! Great job, Kurumi!」



まるで優等生かのように褒められ、私はかなり嬉しかった。


聞いた話によると、アメリカでは掛け算を小学四年生から始めるらしい。だから感動したとのことだった。

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