第2話 祖父母との別れ
家族全員で世界最大のスーパーマーケットへ買い物に出かける。食料品、家具、衣料、車用品、自転車や薬局。そこにはすべてが揃っていた。
カートを押す母に視線が行き、はじめて見る大きさに私は感激する。
「すごーい、大きい!乗りたい!!」
昔からカート下に座るのが大好きで、日本の五倍サイズのカートを見た時は、居ても立ても居られなかった。私は十分スペースがあると思い、無理矢理よじ登ってカート内に乗ろうとする。
「わっ!危ないから、やめなさい!」
母に叱られ、私は素早く飛び降りて逃走。
奥に突き進むと大きな透明ケースに、何かがたくさん並んでいた。レジとは別で、小さなカウンター内いっぱいのスペースを使って、突っ立っている大柄のおじさん。
知りたがりの私は、追いかけてきた母に質問する。
「お母さん、これなぁーに?」
「……!!危ないからこっちに来なさい!」
母が驚いた表情で、瞬時に私の腕を掴み引っ張っていく。
当時母は教えてくれなかったが、確かにそこには何十本もの猟銃が並んでいた。
別エリアへ移動し、探す祖父母。二人は日本に住む友人やいとこ達のために、お土産を探していた。
「おばあちゃん、おばあちゃん!このお菓子どう?これにしよ!」
私は元気よく祖母に、目の前の商品を手渡す。
「くるみちゃん、ありがとう。みんなに渡しておくね」
「いいよ!くるみが自分で渡すー!」
言い張る私を見て、一瞬間を開ける祖母。特に何も言わないまま私に微笑み、商品をカートへ入れた。
アメリカに移住して約一週間。家族で動物園に行ったり、軽く観光したりと新生活を満喫する家族。
おばあちゃん子だった私は、何枚もの写真を一緒に撮った。行動派の父はすぐに写真を現像。写真立てまで買い揃え、私はさっそく写真の選別に取り掛かった。
「んーとね、こっちはこの写真入れて――」
一枚一枚手に取り、嬉しそうに振り返る私。隣で眺める祖母が、私に話しかける。
「おばあちゃんとおじいちゃん、明日日本に帰っちゃうけど頑張るんよ?電話もするし、お手紙も書くし、日本のお菓子もいっぱい送るから……いつでも連絡してね?」
「ん?うん、分かった!」
言葉の意味を理解していない私は、笑顔で返事した。
翌日のまだ少し肌寒い早朝。私たち星成家と祖父母は前庭に集まっていた。道路脇に停車する黄色いタクシー。その前で祖母が悲しそうな表情で別れの挨拶をする。
「くるみちゃん。これから大変やろうけど、お父さんとお母さんの言うことちゃんと聞くんよ。くるみちゃんならきっと大丈夫。おばあちゃん遠くからずっと応援してるから……頑張ってね」
泣きながら私を強く抱きしめる祖母。あまりの大袈裟な反応に、私は違和感を覚える。
またすぐ会えるのに、おばあちゃんどうしたんだろ……?
二年会えなくなる。そんな話を祖母から前日に聞いていた。だが幼い私に、二年の月日がどれほど長いかなんて想像もつかない。私は以前と変わりなくまた会える。そう信じていた。
走り去る車に向かって、手を振り続ける星成家。後部座席の窓越しに手を振る祖父母の姿がよく見える。
私たち星成家は車が角を曲がり終えるまで目を離すことなく、最後まで見送った。
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