第20話 内見はいつも

 社会人になって、1人暮らしを始める時の話です。


 幽霊が見える話をしてきましたが、長い間見える時と3〜5秒程度しか見えない時があります。

 ほとんどが短い時間しか見えないので、害はないのですが、部屋を借りる時にあった話です。


 社会人の4年目位に結婚を考えてもいいと思う彼女が出来て、会える時間を増やす為に1人暮らしを初めようと考えました。

 結婚を考えていたので貯金をしたい事もあり、田舎の1人暮らしの部屋の相場が4~5万円でしたが1万円位低い金額でお願いをしました。

 電話をした不動産屋さんは『数は少ないけど、大丈夫ですよ』と言っていたので、その週の日曜日に内見をお願いしました。


 不動産屋さんに着くと担当の男性が用意していた車に乗り込み、内見が始まりました。


 最初に4万円前半の金額の1Kの部屋で問題ない感じですが彼女が来た時に少し狭い気がしました。

 それよりも部屋は3階にあり、エレベーターがないので荷物は階段の往復になる事が気になる位で変な感じませんでした。


 次に『三万円前半の金額の1Kの部屋で最初に見た部屋と同じ様な感じです』と、不動産業社の担当者が気さくに話しています。

 2階にあった部屋の前に行き、鍵を開け、ドアノブに触れた担当者の手から黒い霧状の物が…。

 その時に“あ、やばい”と思いましたが、担当者と一緒に部屋に入るから問題がないと考えて一緒に入りました。

 玄関を開けると奥に内扉があり、手前にトイレ・バスの扉と廊下にむき出しのキッチンがあります。


「ここに水道の水抜き弁があり、その上が下駄箱になります。

 少し狭いですが男性の1人暮らしならこれ位がちょうどいいと思いますよ」


 担当者は玄関の右横の棚を開けて見せる。


「トイレとバスは一緒になっていて、このお値段だと別々は難しいです。

 キッチンは狭いですが横に洗濯機を置いてもらう場所と冷蔵庫を置いてください。

 場所が狭いので買う時に大きさの確認を行ってください」

 

 キッチンの横直ぐに洗濯機を置く事に抵抗があったが、この値段なら仕方がないのかなって思った。

 担当者はそのまま内扉を開ける。

 左手の奥に白い紐状の物が天井から床の方向に直線的に浮遊しているのが見えている。

 白い紐は50㎝以上はあり、絵で描いた様に浮き出ていて白かった。

 担当者が部屋に入っていっても驚いていないので、見えていない事が分かった。

 担当者がその紐に近付くといきなり消えた。

 見た目に変わった所もなく、部屋の中は白い紐以外は嫌な感じはない。

 それでも部屋に入るのが嫌だったので、内扉の付近にから中を覗くくらいにした。


 3軒目は1DKで3万円後半で階段の横の2階の部屋だった。

 階段を登って行くと1階と2階の中間の踊り場に小さなダンボールが置いてあり、一瞬だけ子供の足だけが見える。

 幽霊か生霊か分からなかったが見た足が細かったので小学生か幼稚園児の足だと思う。

 部屋に案内されると何も感じなく、問題がない感じがしたが小部屋に入った時に隣の部屋から声がする。


“外にいなさい”


 ハッキリと聞こえている感じではなく、そう言っている気がする感じだった。


“外にいなさい”


 担当者は普通にしているので聞こえているか不安になって、聞いてみる。


「隣は子供がいる家族ですか?」


 担当の視線が隣の壁に向けられ、嫌な顔をしている。


「今はいないのですが、前は子供のいる方でした。

 どうして、お聞きになられたのですか?」


「お母さんの声が聞こえました。」


 担当者はため息をつく様な感じの行動をすると部屋を出ようとしている。


「今日はやめて、帰りましょう」


 あからさまに今までの感じと変わって見える。


「最後の物件は事故物件ではないのですが、隣に住んでいたお子さんが階段から転落死しました。

 その後、お母さんが精神を患ってしまい、入院をしています。


 その物件を貸したのが当社だったので、覚えています」


「声がすると言われますか?」


 好奇心から聞いた。


「女性が子供を叱る声がすると何度か言われた事があります。

 私には聞こえないんですけどね」


 私が聞いた声は叱っていなかった。

 人によって、聞こえる事が違うのだろうか?


「2件目は事故物件ですか?」


「表記がないので、事故物件でないと思います」


 そう言うと、担当者は不動産屋に戻り、手慣れた様に塩を取ってくると自分と私にかけた。


 後日、1番最初の物件を値引きしてくれる話があり、最初の物件に住む事になりました。


 怖い話ではないのですが、そんな事もあった話です。

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