【勇者物語】 第七章 賢者の塔七階

 七階へと続く階段の先にはオカリナの絵が描かれた扉があった。


「このオカリナは……」


そのオカリナの絵に見覚えがあったライムは懐からあれを取り出し見詰める。


「……やっぱりそうだ。この絵は俺が持っているオカリナと同じものだ」


それは時の神殿の秘宝の間に描かれていたオカリナと同じものだった。


そしてここまで来ればこの塔に描かれていたマークがやはりエレメントストーンと同じであったという事に納得する。


「最後の階……一体この部屋の中には何が待っているんだろう?」


扉に手を当てながら独り言を呟く。すでに六階まで戦い続けてきた彼の体力は限界に達していた。いくら途中で寝泊まりできる部屋で休んだとはいえ、最後の最後まで戦いとなると体調が万全でない自分が賢者達に勝てるのだろうかと一抹の不安も覚える。


「よし、最後の部屋だ。気合入れて行こう!」


臆する自分を奮い立たせるかのように、意を決したライムは扉を押し開け中へと入る。


部屋の中は薄暗くその空間の中心には七本の柱が立っており、その上には七人の人物が佇んでいた。


右端から順に火・水・風・星・光・闇・地の順番だ。


火の柱の上にはドワーフ族の男性が、水の柱の上には亜人族の女性が、風の柱の上にはコロボックル族の女性が。


光の柱の上にはエルフ族の男性が、闇の柱の上には魔神族の男性が、そして地の柱の上には亜人族の男性がそれぞれ佇んでいる。


姿形が違っていてもライムは自分が戦ってきた賢者達であると分かった。


ただし、中央にある柱の人物だけは黒いローブ姿で、フードを目深まで被っていたため顔が分からなかったが。


『挑戦者よ。良くぞここまで来た。……ここまで来る間に君はいろいろなことを学び、経験して大きく成長した』


「っ!?」


中央の柱の上にいた人物が一瞬でライムの前まで飛び降りてくると微妙な距離を保って口を開く。


その声が雪奈にとても似ていてライムは驚き目を見開いた。


『君は大きく成長した。実感はないかな?』


「っ! そういえば、前と比べたらロングソードが重くなくなったような……」


そう尋ねられて言われてみればといった感じで話す。


『それはそうだよ。君はここまで来る間に八年もの時を過したのだから』


「え? 八年?!」


賢者の言葉にライムは自分の身体をまじまじと観察する。


八年も時がたったその姿は小さな子供ではなく立派な青年に成長していた。と言っても小人族である彼は大きくなっても十五歳くらいの身長で止まっているのだが。それでも小さかった時と比べたら大きくなっていた。


『この賢者の塔の中では時の感覚がない。つまり時間が経っていても感じられないのさ。だから、君は気付かなかった……大きく成長していることに』


「俺は成長してたんだな……」


賢者の言葉に彼はしみじみとした口調で呟く。


『この塔で経験をつみ知恵をつけ、君は魔王ジェラートと戦えるだけの力を手にした』


「そうだ、ジェラートを倒しに行かないと! 八年も過ぎてるなんて、あいつの好きなようになんてさせていられない!」


賢者の言葉にライムは慌てた様子で叫ぶ。


『今の君なら大丈夫。賢者が認めた証を持っているのだから』


「え? 証なんて何も貰ってないけど……?」


その様子をおかしそうに見ながら賢者が淡々とした口調で話した。賢者の言葉に彼は不思議そうに首を傾げる。


『そう。君がこの塔で手に入れた証……勇気と知恵と力。そして……何年経とうと揺ぎ無いその友を想う気持ちがあれば、魔王ジェラートを倒すことが出来る』


賢者が静かな口調で語りだす。


『各地にいるエレメントストーンに選ばれし者達の下へ行くんだ。君が来るのを待っている。そして……ライム。君でしか救えない「友」を助けてあげるんだ』


「え? どうして俺の名を?」


賢者の言葉に彼は訝しく思い首を傾げる。その時魔法陣が現れるとライムの身体を包み込んで消えた。


「っ……ここは? シュナック村の近く?」


辺りを見回して彼は驚きの声をあげる。


「あの賢者は……一体誰だったんだろう?」


雪奈の声にそっくりなフードを被った賢者の姿を思い浮かべてライムは呟く。その謎は解けることなくずっとライムの胸の中で渦巻いた。


しかしいくら考えていてもきりがないため今は気持ちを切り替え、賢者に言われたとおりにエレメントストーンに選ばれた仲間達を探す旅に出る事にする。


ここからライムの新しい冒険が始まりを迎える事となるのであった。


**************


 ライムがいなくなった賢者の塔七階では賢者達が柱の上から黒いフードを被った人物を見守っていた。


「……君達には付き合わせちゃって悪かったね」


「いや。久しぶりに骨のある挑戦者で私は楽しかったぞ」


フードを被った賢者は言うとドワーフ族の男性がすぐさま答える。


「あれでよかったんですか?」


「あれでいいんだよ。ライムにはね」


コロボックル族の女性が尋ねるとそれに賢者は答えた。


「雪奈。これからお前はどうするんだ?」


「これから彼女に会いに行くよ……今度は僕が彼女を助ける番だ」


亜人族の男性の言葉に賢者はすぐさま返答する。そして胸元にぶら下がる緑石を握り締めると光の中に包まれ消えた。


「もしかしたら、ぼく達が彼女と出会った時から、全ての運命は廻り始めていたのかもしれないな」


エルフ族の男性の言葉が静かな空間に木霊する。


「雪奈。……君の運命がどの様に巡り行くのかオレ達には分からない」


「だけれど、あなたの行く末を見守る事はできるわ」


魔神族の男性の言葉に続けて亜人族の女性も静かな口調で語った。


「「「「「「彼女に幸があらんことを」」」」」」


賢者達は言うとその姿を消す。それは闇の少女がまだ「光の使者」に出会う前の出来事だった。


巡る星々の物語うた~全ては「僕」のために https://novelup.plus/story/411315390


世界の缶詰(番外編を集めた物語短編集)  https://novelup.plus/story/542816083

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勇者物語 賢者の塔編 水竜寺葵 @kuonnkanata

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