【勇者物語】 第六章 賢者の塔六階

 階段を上った先には光のマークが描かれた扉があった。


「これは……光? 火・水・風・地・闇ときて光か。本当にこの塔の属性はエレメントストーンと同じなんだな」


「ここまで同じって事は、やっぱりエレメントストーンと何か関係があるのかな」


ライムは独り言を呟きながら扉を押し開ける。


「この部屋は普通だな~。でも、四方八方の壁に何かついてる?」


部屋の中は特に何もなくただ天井近くの壁に球状の物体が設置されてあった。


それをまじまじと観察するもよく分からないので視線を外す。


『頂上を目指す若者よ。汝の実力を示し見事この階をクリアーして見せよ』


「っ!」


今までと同じ様に突如男性の声が部屋の中に響き渡ると、彼は気を引き締めなおし前方を見やる。


上空から羽ばたきが聞えてきたかと思うと背中から翼を生やした鳥人間が現れた。


『我は光の戦士……挑戦者よ。お前の実力を示して見せろ』


鳥人間が言うと金色に光り輝く弓を構える。


「すぅ~。よし、行くぞ!」


ライムは大きく深呼吸するとロングソードを構えて足を踏み出す。


『はっ』


「たぁ! ……やっぱりそう簡単には当らないか」


鳥人間が放った矢を彼は跳ね返した。素早い動きでそれを回避する相手の様子にライムは渋い顔をする。


『はっ、やっ』


「やぁ。燕返し!」


鳥人間が二回連続で矢を射ると、彼はその一つを払い除け、もう一つは技を使って弾き返す。


『っ』


「当った!」


その攻撃を避けようと動いた鳥人間の肩へと矢がかすめる。それにライムは喜び笑顔になった。


『……成程。ここまで来る間に随分と成長したものだな』


「さあ、今度はこっちの番だ! ……跳び切り!」


鳥人間が彼を見詰めしみじみとした口調で独り言を呟く。


先程の攻撃によりリズムを掴んだライムは言うと、技を繰り出し相手の目前まで飛び上がる。


『うっ!』


「よし、当った」


彼の剣戟を諸に食らった鳥人間が小さく悲鳴をあげたが、素早くライムから距離を取って弓を構え直す。


暫くの間この部屋には矢と剣の音が響き渡った。


矢を剣で弾いたり相手の行動の隙を付いて魔法で攻撃したりとライムは思いつく限りの戦法で戦う。


「貫け、ライトニング・ソード!」


『っ』


「よし!」


彼の魔法により雷の刃に貫かれた鳥人間が痛みに顔を歪めて胸を押さえる。


その様子を見てライムは思わず勝利を確信しガッツポーズをした。


『なかなかの腕前だな。……だが、お前の攻撃は既に見切った。これからはそう簡単には我に攻撃する事はできない』


「何だと?」


平常に戻った鳥人間が言うと天井すれすれまで飛び上がる。相手の言葉に彼は怪訝そうに首を傾げた。


『食らえ、プリズム・ソード』


「うわぁ!」


鳥人間が言うと天井に向けて矢を放つ。


その矢に込められた魔力により光り輝く巨大な刃がライム目掛けて突き刺さる。それを食らった彼は悲鳴を上げて膝を付いた。


「まさか、魔法を使ってくるとは……」


『驚いたか? 魔法を使えるのはお前だけではない。……相手がどの様な属性で、どの様な戦法が得意なのかを見極めるのも大切だ』


ライムの言葉に鳥人間がまるで諭すように教える。


『さあ、挑戦者よ。それを知った上で如何出てくる?』


「魔法には気をつけないとな」


立ち上がり戦闘態勢を整える彼に鳥人間が言う。それに答える様に剣を構えるとライムは独り言を呟いた。


「やあ!」


『ふっ』


ライムの切り攻撃に鳥人間が小さく声を漏らすと横に避ける。その時四方八方の球状の物体から光の矢が放たれた。


「な!? っ……大回転切り!」


『ほぅ』


彼は自分目掛けて飛び交う矢に驚いたものの冷静に状況を分析して技を繰り出す。


ライムのとっさの判断により繰り出した技で、彼は矢の攻撃を受けることなく難を逃れる。


ライムの行動に鳥人間は感心した様子で声を零した。


「あの球状の物体は矢の発射装置だったのか」


『四方八方から来る矢を全て薙ぎ払うとは見事だ』


独り言を呟いている彼の下に鳥人間の声が聞こえてくる。


「これからは、壁から来る攻撃にも気をつけないとな」


『成程。……確かに。この挑戦者は単なるバカではないな』


ライムの言葉を聞いた鳥人間が小さく笑みを浮かべ呟く。


まるで今まで戦ってきた者達から話を聞いているといったような感じで納得している鳥人間の言葉を、もし彼が聞き拾っていたら疑念を抱いたかもしれない。しかしその言葉がライムの耳に届くことはなかった。


『はぁ、やっ。たぁ!』


「っと、はぁ。やあ」


鳥人間の三連続で放たれた矢を一つは避けて一つは弾き落とし、最後の一つは相手目掛けて跳ね返した。


『っと』


「おっと!? 大回転切り」


それを素早い動きで相手が避けている間に、彼の下へと四方八方から矢が飛びかかってくる。


それにライムは一瞬慌てたが直ぐに気持ちを切り替えて大技を繰り出す。


『っ!?』


「っ!? そうか!」


彼の剣により跳ね返った複数の矢が鳥人間の腕をかすめた。


驚く相手の様子を見たライムは、その手があったかとある戦法を思いつき笑顔になる。そして彼は次のチャンスを狙った。


『食らえ、プリズム・ソード』


「燕返し」


鳥人間が放った魔法を彼はロングソードの平で弾き返すと直ぐに技を放てるように身構える。


「きた! 大回転切り!」


再び四方八方から光の矢が放たれるとライムは声高々に言い放ち技を繰り出す。


『っぅ!? ……ふぅ。負けた、か』


自分の繰り出した技を避けている隙に放たれた、ライムの追撃に対処できずに鳥人間が諸に矢の雨を食らう。


幾つもの矢が己の身体を貫く中、鳥人間が静かな口調で言うと光の粒子に包まれながら姿を消す。


『挑戦者よ良くぞここまで辿り着いたな。お前の実力は見事なものだった。……最後の階へと進むと良い』


「最後の……階」


鳥人間の声だけが聞こえる部屋の中で、ライムは相手が発した単語を小さく繰り返して言う。


そして戦闘終了と共に開かれた隠し階段の方角をじっと見据えた。

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