第4話 破滅を救う調べ

{ … われは   風の住人 … }


突然、アルフレッド達の意識の中に、声が聞こえてきた…


その言葉と共に、アルフレット達の目の前に黒い影が立ち上がり、


「エ、エレン…   」

「エレンなのか」


 意識を失っていた、エレンがアルフレッド達の前に現れた。


 しかし、鉛色のガスを全身に纏ったその雰囲気は、異様な威圧感を感じさせ、エレンの面影は消え去っていた。




ゴォォ…

船内が微細に揺れる。




(はっ)



「 …か、 風が見える… 」

「な、 何だ これは…」



「 黒い渦…  ブラックホールか… 」



 突然、不思議なイメージがアルフレッド達の中に入り込み、意識を支配してゆく。








 …









三つの惑星系が見える…





綺麗だ…   なんて奇麗な惑星系なんだ…





整然と、美しく、一つの惑星系の周りを、二つの惑星系が回っている




( 次々と様々なイメージが浮かび上がっては、消えてゆく )




激しい光が見える


プラズマか… 中心の三つの恒星たちが直線に並ぶたびに、光で繋がっている




宇宙が…  濃くなってゆく…




( 突然、強烈な光が放たれる )


あぁぁぁぁ!




恒星達の間に 光の帯が…




星が繋がって…




う、 宇宙が割れてゆく…




二つの恒星に挟まれた、中心の恒星が段々と小さくなって…




惑星が引き込まれてゆく…





うっ!


( 小さくしぼんだの恒星から強烈な光が放たれ、 意識全体を覆った )




ぁぁぁぁ…




( 徐々に光が和らぎ   また   イメージが戻ってきた )



こ、恒星が


黒い…     黒い渦に




変わった…




( 黒い渦から、色鮮やかなガスが放出されている… )




ぁぁぁぁ… なんて奇麗な光景なんだ…




俺は あのブラックホールが出来た 歴史を見ているのか…





( 目の前が暗くなる… )




―ゴォォォォ!!


( 突然、アルフレッドの目の前に  蒼白く輝く恒星と  黒い渦が現れ )




( 光の帯で   つながった )




{  …   アルフレッド  つなげては…  いけない   …   }





{ … }







 意識が戻ったのか、目の前に薄暗い船内の壁が見える…


「う、 ぅぅぅ… 」



しかし、意識は混濁し、

か、身体が言う事を聞かない…


自分の身体が、自分ではない様な、


嫌な感覚だ。



 アルフレットは何とかこの状況を把握しようと、意識を集中し、身体をゆすり、横を向くと、他のクルー達の身体の周りには鉛色のガスが覆い、彼らもまた、自分と同じ様に身体を動かす事が出来ないようだった。



ぁあぁぁ… や、 や め ろ


 すると、アルフレッドの身体が、自分の意志とは関係なく、誰かに操られるかのように立ち上がり、コントロールパネルを見つめると、


『 し、 シリウス B を    ブラックホールに  引き込ませ…   る』

アルフレッドの意志とは関係なく、言葉が出てゆく…。


「アルフレッド、それをすると超新星爆発が起き、この宙域が消滅します」

 ヘルメスが答える。


ガチャ…

 アルフレッドが探査船のコントロールパネルに近付いていく。


「アルフレッド、恣意的に星を破壊するのは規則違反です」

「止めてください」

「止めなければ、全ての機能を停止します」


 アルフレッドはコントロールパネルに手を掛け、重力を操作する、グラヴィテーション・コントロールの操作に入った。


<ピィ!><ピィ!><ピィ!>

<グラヴィテーション・コントロールが起動しました>

<宙域の重力バランスが変化します、総員5光年先まで速やかに避難して下さい>


「アルフレッド、止めて下さい」


<ピィ!><ピィ!><ピィ!>

<グラヴィテーション・コントロール完了まで残り7フェーズ>

<宙域の重力バランスが変化します、総員5光年先まで速やかに避難して下さい>

<キャンセルまで、あと10分> 


「止めるのです、アルフレッド」




ハァ、ハァ…




「アルフレッド!」




<ピィ!><ピィ!><ピィ!>

<グラヴィテーション・コントロール完了まで残り3フェーズ>

<宙域の重力バランスが変化します、総員5光年先まで速やかに避難して下さい>

<キャンセルまで、あと7分> 




「アルフレッド!」




グラヴィテーション・コントロールが起動し、この宙域の重力バランスが変化を始め、


シリウスBがその力に 摑まった。




<ピィ!><ピィ!><ピィ!>

<グラヴィテーション・コントロール完了まで残り1フェーズ>

<宙域の重力バランスが変化します、総員5光年先まで速やかに避難して下さい>

<キャンセルまで、あと3分>






{  … アルフレッド   歌うのよ …   }



… エレン… 







<ピィ!><ピィ!><ピィ!>



「ア、アルフレッド…」


ガチャ…




 その時、突然、暗い船内の奥から、美しいヴァイオリンの音色が聞こえてきた…


ヴァイオリンは、Elgarの ”Salut d'Amour” を静かに奏で、



ゴォォ… 



その音色に反応しているのか、アルフレッド達を覆っていた鉛色のガスが揺れはじめる。



♩~ …


ゴ ゴ ゴ ゴォォ…オオオオオ!!!


鉛色のガスは、ヴァイオリンの調べと共振しているかのように、その音色と共に大きく揺れだし、





オオオオオオオオオオ!!!



さらに激しく共振し、



ゴォォ…

その揺れと共に、鉛色のガスが崩壊を始め、


そして、対流しながらアルフレット達の体から離れてゆく…




ゴオオオオオオオオオオ      ォ  ォ    ン       …

 



鉛色のガスは徐々にその動きを弱め、  消えて行った…


ガスが消えると同時に、アルフレッド達の意識も回復し、



「ハァ、ハァ、 ヘルメス! グラヴィテーション・コントロールを停止しろ!」


「グラヴィテーション・コントロール停止します」


< ブッシュゥ >

<グラヴィテーション・コントロールがキャンセルされました>




 アルフレッドが倒れながら、美しい旋律が流れてきた船内の奥を見ると、

マクシミリアンがヴァイオリンを持ち、その場に佇んでいた。


「マクシミリアン…」

「アル、よく分からんが、助かったのか」

「あぁ、お前のヴァイオリンでな」

「ヘルメス、急いでこの宙域から離脱してくれ」


「了解しました、アルフレッド」





 アルフレッド達は、探査をしていたシリウス星系から離れ、鉛色のガスが完全に消え去ると、エレンも意識を取り戻し、話ができるようになってきた。


「エレン、俺たちを覆っていたあのガスは何だ」

「…あれは、良い子たちよ」

「遠く離れた外宇宙から、突然この宇宙に引き込まれたの、あのブラックホールに」

「何億年もさ迷って、扉が開くのを待っていたわ、一部は新しい扉を探して旅立って行ったけれど」

「深いさみしさと、悲しさを感じたわ」


「…あの子達、ネオンガスの意識体サイマティクス ディスカーナトを開放する為の、音楽frequencyか」


「えぇ、破滅をも救う、美しい調べよ マクシミリアン」

「ありがとう」


「どういたしまして」

「誰かが歌えと伝えてきたんだ」


「歌えでヴァイオリンか」

「良かったな、マックス」

「電子でもお前のヴァイオリンは最高だ」


 アルフレッド達は、マクシミリアンの手の中に収まっている、ヴァイオリンを見つめながらも、我々に近付いてきた、何かの意識体であろうガスの事が気になっていた。


 彼らが伝えたい事とは何だったのか。


 心の中に霧のような何かが残っている事を感じていたが、シリウス星系の探査は、その成り立ちをネオンガスの意識体が伝えてくれた事で、探査は一つの区切りとし、アルフレッド達は、この星系から離れてゆく事を決めた。


 あのガス意識体が地球と関わっているのか、謎を残しながら…


「あの子達よ…」


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遥かなる星々の物語 第一章 No.2「 恒星シリウス 」 END

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