アンビバレンス

玉手箱あかね

全1話

 6年間付き合っていたタクマと別れて一週間。別に、嫌いになった訳ではなかった。ただ、ときめきが消え失せてしまった。

 別れた理由はつまらない喧嘩だった。翌日見る予定だった映画をどれにしようかと相談したのに、タクマは何度も見たことのある動画をボーッと見ていてつまらなそうだった。

 私のほうから

「もういいよ」

 ・・・と、それきり。

 ラインも電話番号も削除してしまった。


 高校のとき知り合って、あちこち遊びに行った。

 タクマとの6年は、楽しい時間だったけれど、こうして別々の人生を歩き始めてみると、一体なんだったのかな・・・と思ってしまう。

 これがいわゆる、長すぎた春?

 ・・・そうかもしれない。


 タクマと別れたことを友達にラインで打ち明けた。

 友達は、私が振られたのだろうと思って泣き顔イッパイのスタンプをたくさん貼り付けてくれたけど、こっちから縁を切ったことを知ると、

「ほんとにいいの?」

 と何度も念押しされたあげく、いきなりユウトという2歳年上のイケメンを紹介してくれると言う。


 これも有難いご縁かも・・・と、待ち合わせの場所へ向かった。


 ここで合っているはず・・・と、辺りを見回していると、それらしき男性が近付いてきた。

 確かにイケメンだけれど、私の好みとは少し違っていた。


 映画を見てから食事に行きましょう、ということで映画館までお互いの自己紹介をしながら歩いた。

 彼は公務員で、仕事も定時で終わるみたいだし収入も良さそう。

 服装のセンスも良くて、もしかしたら実家もお金持ち?と思えるような品の良さ。


 映画は何にしようかと相談するのも真剣に考えてくれて、もし今日の一本がつまらなかったらまた次に会えるときに見ましょうと、次の約束も提案してくれた。

 私のこと、気に入ってくれたのかな。


 映画は、予想以上に泣ける話で、これを選んだのは失敗だったかと思ったけれど、横を見ると彼のほうがぐしゃぐしゃに泣いていて、なんだか心が温かくなってきた。

 久しぶりだな、こんな感じ。

 この人を好きになれそう・・・


 ドキドキ・・・ドキドキ・・・


 ・・・ん?

 あれ?


 自分の心臓が、ドキドキしているのかと思ったら、目覚まし時計がジリジリ鳴っているのだった。


 ・・・夢か・・・。


 隣を見ると、まだ寝ているタクマ。

 一体、このタクマのどこが好きで一緒にいるのか???


「ねぇ!タクマ~!今日映画行くの?行かないの?」


 眠気まなこでようやく起き上がって、ベッドに座り込むタクマ。


「おはよ。今日はこのままゴロゴロ寝ていたいけど・・・そういうわけにもいかないか・・・

 なぁ、そろそろ結婚しない?」


 タクマのまさかの発言に、いきなり脳味噌フル回転だ。


 確かに、そろそろ結婚したほうがいいと思う。ゆうべプロポーズしてくれていたらすぐOKだったのに。

 夢のなかで見たユウトの姿が脳裏に浮かぶ。

 この先まだまだ出逢いがあるかもしれない。

 でも、ないかもしれない。

 タクマの良さを真面目に考えてみると、いくつも思い浮かぶ。だって私が6年も付き合っていられたんだから。


 ときめきが消え失せてしまっても、一緒に暮らせるんだろうか。


「一緒にいて楽なのが一番いいよな」


 確かに。この先、私もいつまでも若くないし、どんなトラブルが襲ってくるかもわからない。病気になることもあるかもしれない。

 タクマだったら、無理しないで自分が自然体でいられるように思う。


「うん。今日は結婚指輪選びに行こう。」


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アンビバレンス 玉手箱あかね @AkaneTamatebako

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