第5話 仕事終わりに

 仕事を終えた二人は街に戻ると一直線にダンジーの店へ向かった。


 今度はノーティアスのような馬鹿に絡まれる事は無く、謎の怪しいサイコ女に仕事を依頼される事も無く。仕事終わりにいつも行う儀式を邪魔する者は誰もいない。


 二人はダンジーの店で飲める最高級の酒とそこそこ美味い飯を揃えて、両者無言で食事にありついた。


 黙々と食い、そして飲む。これが仕事終わりに行われる儀式だ。


 まるで生を感じているかのような食いっぷりに、毎度のことながら周囲の者達は口を挟む事すらできない。


 食事を終えて、気が済むまで飲んだ二人の姿も毎度同じだ。いつも先に酔い潰れるのはリュカであり、ジークとしてはまだまだ飲めるといった雰囲気だが、既にテーブルへ突っ伏している相棒を見捨ててはおけないようで。


「リュカ、帰るか」


「ん」


 顔を真っ赤にしたリュカはジークの顔を見ながら小さく頷く。ジークがダンジーがいるカウンターに料金を置いて戻って来ると、リュカはジークに向かって両手を伸ばした。


「ん」


「やれやれ……」


 これもいつも通りだ。


 呆れたようなリアクションをするジークだが、毎度酔い潰れた彼女をおぶって帰る。どこか二人の絆を感じるようなやり取りだが、周囲には「アツアツゥ!」と茶化すような下品な輩しかいないのが残念だ。


 茜色に染まる街の中、汚らしい道を歩いて家を目指す。二人の家は東区の奥にあった。


 他の住居同様に二人が暮らす家もボロボロだ。外壁の一部はコンクリートで補強されているが、他はレンガ造りの年季を感じる外観。


 代えたばかりの鉄製扉を開け、家の中に入る。間取りは広いリビングと個室が1つとシャワー室が1つといった極端な作りであるが、ほとんどの住居がこのような作りをしている。


 リビングの中央には大きなベッドがあって、床にはリュカの服やジークの服が散乱していた。


 他にも仕事に使う道具や、もう使わなくなったナイフなどが雑に置かれていて、二人の生活に「掃除」や「整理整頓」という概念がない事が読み取れる。


「下ろすぞ」


「ん……」


 ベッドの上にリュカを下ろすと、ジークはコートを脱いで部屋の隅に投げた。次に兜を外し、隠れていた彼の素顔が露わになる。


 老人のような白髪に顔の右側には大きな火傷と傷跡。それを隠すように右側の前髪だけが異常に伸びていた。だが、傷跡の無い左側だけを見るとエルフにも負けないくらいの美男子だ。


 兜を脱いだジークは鎧を全て脱いでいく。ただ、彼の両足だけは金属製のグリーブと一体になっていて脱げない。ここが彼の体においてマキナ化している部分だ。


 シャツを脱いだジークは上半身裸になると、ベッドに寝ているリュカの隣に横になる。


 彼等は恋人同士というわけじゃない。一緒のベッドで寝ているものの、寝る時は必ず背を向け合って寝ていた。


「ジーク……」


「なんだ?」


 酔っ払っているせいか、リュカの声はか細く普段よりも弱々しく甘ったるい。漏れる吐息も色気があった。


「……体が熱い」


「そうか」


「……溶けてしまいそうだ」


「……そうか」


 シンと静まり返る室内。シーツが擦れる音がして、ジークは背中越しにリュカが自分の方へ体を向けたのだと察した。


「…………」


「…………」


 きっと振り返って体を向け合えば、大人同士の営みが勃発するに違いない。


 特にリュカは美人でスタイルも良い。間違いなく『イイ女』のカテゴリに属する女性だろう。他の傭兵達が彼女を抱きたいと言うのも当然だ。


 傭兵稼業とは、いつ死んでもおかしくない。それこそ明日に死ぬ可能性だって十分にある。だからこそ、大抵の傭兵はいつ死んでも悔いが残らないように生きているものだ。


 美人から抱いてくれと誘われたら断るヤツなんていない。


「リュカ、俺は――」


 だが、ジークは決してリュカの方へ振り向こうとしない。何故ならば……。


「俺はお淑やかな女性がタイプだ。間違っても男の股間を蹴り続けて奇声を上げるような女は抱かない」


「殺すぞ」


 いつか後悔させてやるからなッ!


 捨てセリフのような言葉を口にして彼女はジークに背を向けた。


 これも彼等にとってはいつも通り。エルフと鎧男――街で有名な男女コンビの日常である。

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異世界アウトロー ~怪しい女からの依頼編~ とうもろこし@灰色のアッシュ書籍化 @morokosi07

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