恋をした、少年の話

霧嶋結楠

夏の日の思い出。

オレはあの夏の日、恋をしたんだ。

それは初めての恋だった。

所謂一目惚れってやつでさ、あの時の彼女の姿が未だに目に焼き付いてる。


彼女を初めて見たのは両親に連れられて田舎のじいちゃん家に遊びにいった時だった。

じいちゃん家の側にはクヌギの森があった。特にすることも無く暇を持て余していたオレは、その森を探検する事にしたんだ。


そして…迷った。

それはもう、面白い程に。


「どうしよう…」


日はどんどん暮れていき、元々薄暗かった森には殆ど光が差し込まなくなっていった。


心細くなって泣きそうだった、その時。

誰かに呼ばれた気がしてキョロキョロと辺りを見回した。


そこに…君が居たんだ。とても綺麗な…君が。

君は言葉を発する事もなく、オレを一瞥してから去ろうとする。


「まって…!」


オレは彼女を追い掛ける。

手の届きそうな位置まで近付くもスルリとすり抜けて、すぐに逃げてしまう。


オレは必死で追い掛けた。

そして、やっと彼女をつかまえた時…気付いたんだ。

森の入口付近まで戻っていた事に。


「…助けて、くれたの?」


オレは彼女に問い掛ける。

オレにつかまってしまった事に動揺しているのか、彼女は何も答えてはくれなかったけど…助けてくれたんだ、と思えた。


オレはそのまま彼女を連れて帰った。

両親は少し驚いていたけど、じいちゃんは褒めてくれた。


「おお、立派じゃぁないか。今、用意してやるでの」


そう言ってじいちゃんは彼女の為に家を用意してくれた。

オレはそのまま彼女を本来の自分の家へと連れ帰ったんだ。


そして、大人になった今でも…オレは彼女と一緒にいる。


「これからもずっと一緒だよ」


そんな事を呟いて、彼女をそっと撫でた。




標本になった、カブトムシ(♀)の君を……。



ーENDー

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恋をした、少年の話 霧嶋結楠 @psyjudgement

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