第35話 再び玩具

 映画は最高だった。

 子供の頃に見ていたヒーロー物よりもド派手になっているし、ストーリーも泣けたし本当に面白い。

 こんなに良いものだったのか、ヒーローものって。

 俺は深く感動し、興奮冷めやらぬまま映画館を後にした。


「面白かったね、直くん」

「ああ。最高だった。想像以上だったよ、これは」

「子供の見る物だって思ってたけれど、私も楽しめたわ」


 凛と一尺八寸も映画を楽しめたようで、二人であのシーンがどうだとかあのヒーローがどうだなんて話をしている。

 さっきまでは仲が悪かったというのに、映画って凄い力があるんだな。

 映画というか、ヒーロー?

 まぁこの際どっちでもいい。

 とにかく二人が楽しそうに会話をしているのがとても嬉しく思えた。

 

「せっかくだしご飯食べてから帰らない? 明日からはまた敵同士なんだし、今日ぐらいは楽しく食事をしようよ」

「ええ、いいわよ」

「あ、先に玩具屋に寄りたいんだけど……」


 凛がとびっきりの笑顔で。

 それは本当に嬉しそうにして頷く。


「うん! 直くんの好きな所に行こ!」

「なんで凛がそんなにワクワクしてるんだよ」

「だって直くんが楽しんでるのが嬉しいんだもん。それにね、自分の好きなことを追い求めていたら、将来意外な方向に道が繋がることもあるの。だから直くんの好きなことにはすっごく興味があるんだよ」

「意外な道か……玩具がどこに繋がるかどうかは分かんないけど、面白そうだな」


 俺は凛と共にワクワクして歩き始める。

 一尺八寸も俺の隣を歩き、ニコニコ笑顔。


「私も木更津くんの好きなことに興味あるな」

「そうか? ありがとう一尺八寸。興味持ってくれて」

「き、木更津くんだって私のこと興味持ってくれるんでしょ?」

「ああ、当然さ。だって友達だもんな」

「…………」


 複雑そうな顔をする一尺八寸。

 凛はそんな一尺八寸を見て声を殺して笑っていた。

 一体なんなの? そんな笑うようなことあった?


 映画館の近くに玩具屋はあり、俺たちは三人そろって店に足を踏み入れる。

 今日見た映画の主演も悪くないけど、自分が好きだったヒーローの玩具を見たい。

 そう考えた俺は、ショップの入り口付近に設置されているヒーローコーナーから商品を探す。


「……あった。これだ」

「これが何?」

「子供の頃見てたやつなんだよ……親に変身アイテム買ってもらってよく真似して遊んでたな……」


 懐かしい思い出が次から次へと蘇る。

 買ってもらった喜び。

 玩具で変身した気になれた記憶。

 それに……壊してしまって泣いた、悲しみも。

 

「これ、私も知ってる。幼稚園ぐらいの時流行ってたよね?」

「ああ。そうなんだ。俺は保育園だったんだけど、保育園まで持って行ってたけど中には持ち込み禁止だから、母親が持って帰ってたよ」

「もう、ちょっとだけジェネレーションギャップ。凛はこれなら知ってるよ」


 凛が指差すのは、左右別々の色をしているヒーロー。

 今日見た映画にでも出てたな。

 どんなヒーローかは分からないが、結構人気はありそう。


「……知らない間に、こんなにもヒーローが生まれてたんだな」

「時間が経って驚くことってあるよね。凛も子供の頃は女の子が変身して戦う作品あったけど……ほら、あれ」


 凛は近くにあるショーケースに移動し、中にある物を指差す。


「凛が子供の頃はこれをやってたんだけど……シリーズも長くなってて、知らない女の子ばかりになってるもんね」

「ああ、これも知ってるわ。私が幼稚園の時にシリーズの最初の作品が始まったんだから」


 二人は童心に帰り、フィギュアを見て楽しんでいた。

 俺も後ろから二人の様子をみて、微笑を浮かべる。


 こんな気持ちをなんで大人になったら忘れるんだろう?

 なんでこんなにワクワクした気持ちを忘れてしまっていたんだろう?

 こんなにも胸が熱くなるものを、何故切り捨てることができたのだろう?


 子供の玩具だとか、子供が見るものだとか、特に俺の中ではそんなくぐりにするのは間違っていると思う。

 理由なんて分からない。

 きっとこれは、俺にとって大事なものなんだ。

 それだけは確信している。

 凛の言う通り、想像もできないところに繋がる道があるかも知れない。

 それがどこに繋がっているのかはまだ分からない。

 でも分からないから、楽しいのかも知れないな。


「ねえ直くん、必要なら買ってもいいよ」

「え? でも……」


 凛は店員を呼ぶ。


「いいから買って。直くんが欲しいと思う物を買うのが凛の喜びなの。だから気にしなくていいんだから」


 きた店員がカギを使い、凛の指示する商品をケースから取り出す。

 俺の返事を聞くこともなく、それを購入してしまう凛。


「ありがとう、凛」

「ううん。楽しそうな直くんを見られて嬉しいよ」


 そんなことを言ってくれる凛に感謝して。

 そして偏見を持たず、楽しく付き合ってくれた一尺八寸に感謝して。

 俺は十何年ぶりに、ヒーロー玩具を購入した。

 それはなんだか宝のような気がして……


 俺は商品が入った袋をギュッと大事に抱き、二人と共に食事に向かった。

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