第34話 映画。三人で

「で、どこに行こうか?」

「そうねえ……二人・・で楽しめるところがいいわね」

「あはは、確かに。ねえ直くん。凛と二人・・で楽しめるところ探そっか」


 二人の視線が痛い。

 そんなに三人で行動するのが嫌なのか……

 俺は一緒に行動しても構わないと思っているけど、こんなに空気が悪いなら止めておこっかな。


「そんなに三人でいるのは嫌か?」

「嫌ね」

「うん。嫌だ」

「じゃあ……今日は解散するか」

「「え?」」

「一緒にいても楽しくないなら仕方ないだろ? 解散するのが一番いいよ」


 一尺八寸と凛はお互いに視線を交わす。

 そしてギリギリと歯噛みしながら、お互いに頷く。


「わ、分かったわ。一緒に行動しましょう」

「うんうん。一緒に行動しよう。そうしよう」

「い、いいのか?」

「当然だよ。直くんと凛のデートに一人ついてくるってだけでしょ? なんの問題もないよ」

「ちょ、あなたがついてくるんでしょ? 元々木更津くんと二人のはずだったのに」


 また言い合いをする二人。

 俺はため息をつきながら歩き出す。


「一緒に行くなら仲良くしよう。ほら、早く行くぞ」

「行こ行こ! 直くんの好きなところに行こう!」


 凛が腕を組んでくる。

 一尺八寸は凛と逆の方から俺の服の袖を掴む。

 ちょっと歩きにくいな。

 できたら離れて歩いてくれません?


 町中を歩きどこに向かおうとも、二人の趣味が合致することは無かった。

 行きたい場所も服の趣味もバラバラの二人。

 あそこは嫌だここは嫌だと行く場所行く場所を否定し続ける。

 だったらどこがいいんだよ。

 そう訊いてみるとどこでもいいなんて言い出すから俺は困り果てていた。

 もうこれ、解散した方が楽だよな……


「あ、直くん」

「何?」

「ほら、あれ見て」


 凛は何かを発見したらしく、前方を指差した。

 そちらの方に視線を向けてみると――そこにあったのは、ヒーロー映画ごポスター。


「ああ……映画のポスターか」

「直くん、あれ見に行こうよ」

「ちょっと、子供の見る物じゃないの、あれ?」

「そうだよ。でも直くんはああいうのが好きなの」

「……そうなの?」


 この間までなら全力で否定するところだが……

 どうも心惹かれてしまう。

 中心に映っているヒーローは見たことがない。

 だけど昔見たことがあるヒーローたちが、中心のヒーローたちを囲むように映っている。

 

「見てみたいな……」


 ポツリとそんな言葉を漏らしてしまった。

 俺は我に返り、今の言葉を否定しようとするが……


「うん。行こ。直くんが映画を楽しんでいる姿、凛も見てみたい」

「わ、私も別にいいわよ。あまりこういうの見たことないけれど、ヒーロー上がりの俳優、最近多いしね」

「そ、そう? じゃあ行こっか」


 凛はともかく、一尺八寸も一緒に見てくれるとは。

 でも確かに、鎌克の言う通り人気俳優がヒーロー上がりって多いもんな。

 先に目を付ける目的で見るのもありなのか?


 映画を見るために、映画館へと足を運ぶ。

 時間はちょうど始まる頃だったようで、すぐさまチケットを購入する。


「ねえ、飲み物買って行こうよ」


 凛が飲食類の販売コーナーに並ぶ。

 そこそこ人が並んでおり、俺たちは最後尾に位置する。

 順番はすぐに回ってきて、注文をしていく。


「凛はコーラかな」

「私はアイスコーヒー。木更津くんは?」

「俺は……あ、ポップコーンとセットのやつにしようかな」

「……ペアセットなんて物もあるんだ」


 ペアセット。

 大きいサイズのポップコーンとドリンクが二つついた物だ。

 二人ともドリンクを買うみたいだから、一人はこれにした方が少しお得だな。


「どっちか俺とペアにしない?」

「あ、じゃあ凛がペアね。一緒にポップコーン食べよっ」

「わ、私だってポップコーンを食べたいわ。ね、ペアなら私としましょう」


 またガミガミ言い合う二人。

 俺は二人を制し、呆れならが言う。


「二人のドリンクでペアにするよ。俺は単品で購入するから。ポップコーンは一緒に食べればいいだろ?」

「まぁ、いいけどさ」


 結局、凛と一尺八寸のドリンクでペアセットにし、俺は単品でウーロン茶を注文した。

 お金は凛が支払ってくれるらしい。

 元々俺は、凛のカードしか持っていないから、俺が支払ったところで結果は同じだったけど。

 少し申し訳なさを覚えながら、彼女に甘える。


「私も払うわ」

「いいよ。あんたの分も奢ったげる」

「……ありがとう」

「その代わり映画終わったらさっさと帰ってね」

「だったら払うわよ!」

「冗談だよ。じょーだん」


 凛はクスクス笑いながら料金を支払っていた。

 俺は三人分の飲み物を運び、指定されたフロアへと移動をする。


 席は後ろの方。

 意外と人は入っている。

 それも驚いたことに大人ばかり。


「子供、あまりいないのね」

「俺もビックリしてるよ。もっと子供だらけだと思ってたから」


 購入した席につき、俺の左隣に凛、右隣に一尺八寸が腰かける。

 上映マナーや別の映画のCMが流れ出す。

 俺は妙にワクワクした気分で映画が始まるのを待っていた。

 こんなに楽しみなのっていつぶりぐらいだろうか。

 本当に子供に戻ったような気分で、画面に釘付けになっていた。

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