第21話 皆でかくれんぼをしていて自分だけは参加を許されず外から見学をしていて。でも参加を許るされたとなれば全力を出すであろう。俺は手加減はするつもりはない。勝負は勝つつもりでやらせてもらう。

「片山さん……なんでここにいるのですか?」

「偶然だ」


 チラリと俺の顔を見て驚きを見せる片山さん。

 その表情は憤怒の物に変化する。


「おい……なんで木更津がいるんだ?」

「なんでと言われましても……必然?」


 冷めた声で一尺八寸は片山さんにそう言う。

 片山さんはまた怒りの炎を燃やし、俺を睨む。


「おい木更津。俺は九生……一尺八寸に用がるからお前は帰れ」

「いや、帰りませんよ。今日は一尺八寸に呼ばれて一緒にいるんですから」

「呼ばれたって……どういうことだ?」

「そのまんまの意味です。一尺八寸に誘われたんですよ」


 空気がピりつく。

 片山さんは完全に激怒している。


 だがこれはあえて挑発してみたのだ。

 俺に突っかかってくれた方が一尺八寸を守りやすい。

 俺に矛先が向いてくれた方が、当事者に慣れるだから。


 一尺八寸と片山さんの問題に、俺も入り込むことができる。

 そしてもう一つ、まだ片山さんをどこかで信用している俺もいた。

 その考えを打ち砕くために、彼の反応を見たい。

 一尺八寸が言ったような人物なのか、その答えを見せてくれ、片山さん。


「……こいつは俺の女だ。お前は人の女に手を出すような男だったのか?」

「そんなこと一尺八寸は一言も言ってませんよ。誰かと付き合っているような素振りもありませんでしたし……一尺八寸。片山さんとは付き合ってるのか?」


 一尺八寸は少し青い顔で首を横に振る。

 舌打ちをする片山さん。

 そして一尺八寸の腕を強引に引っ張り出す。


「どっちにしてもお前には関係ない話なんだよ! ほら、行くぞ!」

「止め……止めて下さい! もう私には関わらないで下さい!」

「お前な、俺がやってやったことを忘れたのか? 俺のおかげでお前はあの会社に残ることができてるんだぞ!」

「それはあなたが――」

「俺が何だって言うんだ! 俺はお前を助けてやっただけだろ!」


 片山さんの怒声に周囲の人々が注目していた。

 だが片山さんはそんなこは気にせず、一尺八寸に怒鳴り付ける。


「お前、仕事が無くなったら家庭が大変なんだろ? 給料はそこそこいいはずだよな? それは俺が口利きしてやってるからなんだぜ」

「っ!?」

「な? 話は分かるよな。いいからお前は黙って俺に従え」

「…………」


 一尺八寸が俯き出す。

 彼女の肩は震えている……

 怖がって、そして何か諦めている様子だ。


 片山さんの狡猾な笑み……

 最初から一尺八寸を信じていたけど……ほんの少し片山さんを信じたいという気持ちもあったけれど、これはもう疑いの余地は無い。

 確定だ。


「一尺八寸……誰かに頼ってもいいんだ。俺はこのままじゃ、お前を助けてやることもできない」

「…………」

「お前が一言、俺に助けを求めてくれるだけで俺はお前を助けることができる。俺はお前のために動くことができるんだ」

 

 理由なんて分からない。

 何が何でも一尺八寸のことを助けてやりたい。

 そうすることが自分の中で自然で……自分のやるべきことなんだというのが細胞が理解している。


 俺は助けたい。

 助けなきゃいけないんだ。

 絶対に助ける。


 だから一尺八寸……俺に助けを求めてくれ。


「おら、お前はもう帰れよ。お前は部外者なんだからな」

「分かってますよ……部外者なのは分かってます。だから俺は一尺八寸の言葉を待っているんです」

「こいつは俺の女でお前の助けなんて必要ねえんだよ。いいからもう帰れ」

「…………」


 一尺八寸が片山さんに連れて行かれる。

 このまま片山さんに掴みかかるか?

 でも……そうしたら一尺八寸の立場が無くなってしまう。

 彼女が会社にいられなくなってしまう。

 一尺八寸自身の意思ならともかく、俺の勝手で仕事に支障をきたすわけにはいかない。

 頼む一尺八寸……俺が助けられるように助けを求めてくれ。

 お前は頼りがいのなる相談役で大人びてて……

 でも違うだろ。

 お前には子供っぽいところもあって、無邪気で、弱いところだってある。


 本当は怖くて助けてほしいのは分かってる。

 だから言ってくれ。

 助けてくれって!


「……木更津くん」


 腕を引っ張られながら、一尺八寸は俺を見つめてくる。

 彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。

 表情は恐怖に染まっている。

 さっきまでの明るい顔が嘘みたいに暗い。


 そして一尺八寸は涙を流し出した。

 

「木更津くん……」


 涙を流し、そして震える声で言う。

 小さな声で、しかしはっきりと懇願するように。


「助けて」


 その声を聞いた瞬間、俺の中の細胞が爆発する。

 絶対に助ける。

 何があろうとも。


 俺は一尺八寸の腕を取り、抱き寄せる。


 片山さんは呆然とし、こちらを見た。

 俺は一尺八寸の肩を抱きながら片山さんを睨み付ける。

 

「片山さん。もう俺は部外者じゃないんで。助けを求められたから。もう二人の間に入ることを許されましたので」

「木更津……てめえ!」


 片山さんは怒りのままに俺の胸倉を掴む。

 俺は咄嗟に一尺八寸を後ろに移動させ、彼と正面切って睨み合う。


 喧嘩なんてしたことないけど……

 正直怖いって気持ちもあるけれど。

 でも絶対に引かない。

 俺が一尺八寸を助けるんだ。

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